外国人の「日本売り」が不動産バブル崩壊の号砲に!?
コロナ禍以降、中国から大量の資金が流出していることは、統計上の数字にも現れている。富裕層が海外へ資金を持ち出すほか、自らも移住する動きである。 数百億円単位で資金を持ち出す中国の富裕層は、海外で不動産にも投資する。有力な投資先は日本である。世界的に見て割安であると思えるほか、政治も社会も経済も安定しているのが日本だ。運用環境は悪くない。 先日、NHKが東京都中央区で分譲されている東京五輪の選手村跡地のマンション「晴海フラッグ」の登記簿を調べたところ、かなりの割合で外国人や外国籍企業が所有権を有していたと番組で伝えていた。 もとより港区や湾岸エリアのタワーマンションには中国系の購入者が多いことは知られている。彼らは自ら住むために購入するケースもあるが、値上がりが目的であったり、賃貸運用や民泊などでの運用しているケースも見られる。ただ資産の保全のために保有を続けているケースもあるだろう。 彼らは、購入したタワマンを何十年も保有するつもりはなさそうだ。機を見て「今がチャンス」と考えたときには、躊躇(ちゅうちょ)なく売るはずだ。自分が住んでいない住戸であれば、なおさら決断は早くなる。もしかしたら、そのチャンスは今かもしれない。少なくとも、彼らがそう考える条件はそろってきた。 数年前に購入したのなら、今は1割から3割程度は確実に値上がりしている。加えて、ここのところの円高で、ドル換算にすればさらに1割の為替差益が生じる。さらに、世界の主要国で不動産がそろって値下がりしているのに、日本だけはまだ下落が始まっていない。世界を平たく眺めている外国人からすれば、今が日本のマンションの売り時に見えても何ら不思議はない。 ■外国人が不動産バブルに引導!? 日本人の多くは、日本の不動産市場しか見ていない。それも、ほとんどの人は自分が買いたいエリアだけを見ている。例えば、タワマンが林立する湾岸の埋め立てエリアだ。 その狭いエリアを見ながら「ここなら値下がりすることはあり得ない」と思い込んでいる人も多いことだろう。 何年か前、北京や上海、深圳の都心エリアでのマンション購入に躍起になっていた人も多分、同じような目でその狭い市場を見つめていたはずだ。しかし、市場は生き物だ。変化は突然現れることも多い。 特に、日本の不動産市場の一部は、外国の資本や富裕層が主要なプレイヤーの一員になっている。彼らは、数十年単位での居住や使用を考える日本人とは、基本的な発想が異なる。例えば、数年間の保有で大きな運用益や譲渡益が発生すれば、利益確定には躊躇しないという点だ。 外資や外国人が日本で不動産投資をする場合、その損益は国内の不動産相場に加え、為替の変動にも大きな影響を受ける。このところの不動産相場の高騰と急激な円高は、彼らに国内投資家以上の利益をもたらしている。 例えば、1ドル160円の時に引き渡しを受けた販売額8千万円の晴海フラッグの住戸を、1ドル145円の時に1億円で売却できたとする。日本円だけで考えた際の譲渡益は2千万円だ。しかし、購入額と売却額をどちらもドルで計算すると、約50万ドルで購入した物件が約69万ドルとなったこととなり、4割近い粗利が得られるのだ。 さらに彼らの一部は、不動産の短期売却に発生する高額な税率も厭(いと)わないという。不動産の譲渡所得は、売却年の1月1日の時点で物件の所有期間が5年を経過していたかどうかで短期譲渡所得か長期譲渡所得に区別される。所得税と住民税あわせ、前者は39%、後者は20%と課される税率が大幅に異なるため、投資家は多くの場合、長期譲渡所得となるように売却する。ところが、国内に拠点がない外国籍の個人投資家は 税務当局による徴収から逃れることも不可能ではないのだ。 今後、ファンドや個人など外国人たちの「日本不動産売り」の動きは激しくなりそうだ。それが長らく続いた都心や湾岸エリアの「マンション局地バブル」の終焉を告げる合図になる可能性は高そうだ。 文/榊淳司 写真/135w50.com、photo-ac.com、三井不動産レジデンシャル