知られざる限界分譲地のトラブル。沼地を開発した第三セクター・秋住事件の顛末と、今なお続く難あり土地の宅地開発とは
東日本大震災の被害が甚大であった所も
後に聞いたところでは、秋住が開発した分譲地では、地盤が弱いために東日本大震災による被害が甚大であった所もあるらしい。確かに言われてみれば、いくら軟弱地盤であったとしても、自然に沈下したにしてはあまりに被害の度合いがひどすぎる箇所もある。 地盤沈下が発生したのは家屋だけではない。分譲地内の私道も沈下したために、今も降雨のたびに破損した側溝がオーバーフローして溢れてしまう。私道のため公共事業による補修工事も入らず、住民(私道持分者)の負担のみで、すでに造成が完了している道路の補強工事を行うことも難しいだろう。 秋住事件が発覚した際の旧山武町は大変な騒ぎとなり、原告側住民の自宅にはテレビ取材も入り、ついには町役場による住宅購入者向けの住民説明会が開催される事態となった。自分の両親も慌てて説明会に参加していた記憶があると、秋住の分譲地で幼少期を過ごした元住民は語る。 裁判では建築水準の低さや資材の劣悪さも問題視されたが、総じて軟弱地盤の沈下によって引き起こされている被害なので、同じ分譲地内でも被害の度合いにかなりの違いがある。最終的に、旧山武町内で秋住が開発した複数の分譲地において、100戸以上の家屋で欠陥箇所が確認されることになった。当の住民訴訟は和解に持ち込まれ、前述の通り有志によるある程度の支援は行われたのだが、問題の分譲地には今も住民が暮らしている。 欠陥住宅に限らず、自然災害の発生時にもよく見られる現象だが、こうした地盤や土地の地勢に起因した問題が取りざたされると、必ず出て来るのが、事前の下調べを怠った購入者に対する、ある種の自己責任論である。確かに、欠陥住宅被害者の救済が行われない現状では、被害を防ぐにはまず自分自身で念入りな調査をして防衛する以外の手段はない。しかし、いくら住宅建築が高額なものであるとは言え、専門外である一般市民が、専門知識で武装して被害を防止できなかったことを責めるのは酷な話だ。 また、今でこそ旧山武町内では恒常的に廉価な中古住宅の供給が続いているが、当時は給与所得で生計を立てるサラリーマンでは居住地を自由に選べる状況ではなかったことも、この事件の遠因のひとつとして考えられる。東京都内の新築戸建の販売価格は1億円を下ることがまずなかった地価狂乱の時代、予算的に、この利便性の低い軟弱地盤の住宅地を選択せざるを得なかった住民も当然いたはずである。被害住民が総額7億円にも及ぶ損害賠償請求に踏み切ったのも、その高額のローン負担を抱えたまま、さらに別のところに新たに住居を構えることが困難だったからだ。