“俳優”松村北斗に寄せる絶大な信頼感 『ディア・ファミリー』で徹した“寄り添う”演技
『ディア・ファミリー』を支えた松村北斗の“寄り添う演技”
こういった演技者としての彼の稀有な才能に触れるために劇場へと足を運ぶわけだが、『ディア・ファミリー』の松村はここまでに挙げてきた作品たちとは異なる演技に徹している。この作品は坪井の人生だけを描いたものではない。彼とその家族の愛の物語を描いたものだ。坪井の医療器具の開発には、多くの人の支えがなくてはならない。彼の活動は、周りの一人ひとりの存在によって成り立つもの。この“支え”のうちのひとつが、松村が演じる富岡の存在なのだ。 本作でも松村は分かりやすい演技をしていない。出番が多くはないのだから、人によっては少しでも自分が出演した証を残そうと、工夫を凝らした演技を展開するかもしれない。もちろん、それだってありだ。そうした演技への取り組み、現場への参加の仕方によって、より作品全体が盛り上がることだってあるだろう。しかし、松村はそれをしていない。あくまでも坪井を支える人間のひとりとして、自然体で存在しているだけ。主演の大泉の演技に対し、寄り添うことに徹しているように思うのだ。 劇中に見られるのと同じように、これは俳優同士の、ひいては現場全体の信頼関係が前提としてあってこそ成立するものである。お芝居は相手がいるからこそ生まれる。他者を信じることーーそこから物語ははじまる。本作は俳優・松村北斗のキャリアにおいて、重要な一作だといえると思う。7月から放送が開始される『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)はジャンルとしてはラブコメらしいが、果たしてどのような演技で魅せてくれるのだろうか。
折田侑駿