ボイジャー1号のトラブルが一部復旧 探査機の状態示すデータの受信に成功
■データがうまく送信されないトラブルが発生
NASAは2023年12月12日付の公式ブログへの投稿にて、同年11月14日からボイジャー1号の通信内容に問題が発生していることを公表しました。問題が発生したのは、搭載されている3台のコンピューターの1つ「フライトデータシステム(FDS: Flight Data System)」です。FDSはボイジャー1号が観測した科学データや探査機の状態に関する工学データを「テレメトリ変調ユニット(TMU: Telemetry Modulation Unit)」というサブシステムを介して地球へと送信しています。 ところがトラブルの発生後、TMUは0と1が繰り返される意味不明なバイナリーデータを送信していました。問題の原因はFDS側にあることが判明したため、FDSを再起動して復旧を試みたもののトラブルは解消せず、エンジニアチームはより根本的な原因を調査しました。 そしてNASAは2024年3月13日付、および4月4日付の公式ブログへの投稿にて、FDSのメモリ全体の読み出しデータを受信できたことと、そのデータを分析した結果、FDSのメモリの一部が破損したことがトラブルの原因であると断定したと発表しました。メモリ破損のそもそもの原因は、1つのチップが経年劣化もしくは高エネルギー粒子による物理的な破壊によって機能しなくなったためではないかと推定されていて、対応には数週間かかるものの、機能しなくなったメモリを経由せずにデータを読み出す方法を模索することで、トラブルの解決は可能だとする楽観的な見通しをNASAは示していました。
■5か月ぶりに一部復旧を達成!
2024年4月22日、NASAは実に5か月ぶりに、ボイジャー1号から送信された正常なデータを受信できたと発表しました。先述の通り、トラブルの根本的な原因はチップの1つが機能しなくなったことにあります。このチップはFDSのメモリの一部を格納する役割を担っていましたが、はるか遠方の探査機のチップを修復することはできないため、エンジニアチームは機能しないチップを経由せずにデータを取り扱う方法を模索しました。 データを取り扱うにはメモリに保存されたコードを経由する必要がありますが、今回のトラブルではチップの機能停止の影響を受けた一部のメモリが破損していて、そこに保存されたコードが使用できないことが、正常なデータ送信を妨げていました。トラブルを解決するには、問題のコードをFDSのメモリの他の場所に移し替える作業が必要です。ただし、生き残ったメモリには、問題のコードをそのまま保存できるほどの場所がありませんでした。 そこで、エンジニアチームはコードを複数に分割して、FDSのメモリの別々の場所に分けて保存することを試みました。この方法を使用すればコードの内容を生き残ったメモリに保存することが可能になります。その一方で、ボイジャー1号のコンピューターが分割されたコードをひとつながりのコードとして認識できなければトラブルは解決しません。そのため、ボイジャー1号へコマンドを送信する前に、複数の場所に保存されたコードが引き続き機能することなどを慎重に確認する必要がありました。 エンジニアチームは、送信するコードの内容と、ボイジャー1号のコンピューターが分割されたコードを認識できることを確認した上で、2024年4月18日にコマンドを送信しました。ボイジャー1号からの応答は同年4月20日に受信され、コンピューターがコードを適切に使用し、読み取り可能なデータを送信していることが確認されました。