「原爆による少女の影」はCGで作った画像【ファクトチェックコラム】
人の影が壁に写ったモノクロの画像が、「原爆が爆破した日、被災者の『人の影』が壁に残されていました」という文言と共に拡散しました。爆心地には「人の影」が残った建物もあります。しかし、ネットで拡散した画像の中にはCGで作られた画像も混じっていました。
検証対象 2024年5月22日、「爆心地となった場所の近くでは被災者の『人の影』がのこされています」という文言とともに、人の影などが建物に映った複数の画像がX(旧Twitter)で拡散した。
投稿のスレッドには他の人影の画像も並んだ。そのうちの一つが、少女が縄跳びをしているような影だ。
画像にはコミュニティノートがついており、「CGで描かれた『Innocent Shadow』という作品です」という説明とともに、制作過程の説明へのリンクがついている。
拡散した画像のうち、少女が縄跳びをしているような画像以外は、原爆投下時に広島や長崎で、階段や板塀などに残された本物の画像だ。 階段に残された影の終戦直後の写真と階段部分は広島平和記念資料館に収蔵されている。
縄跳びをする少女
縄跳びをする少女のように見える影の画像には「光が映し出した人影- 長崎にて 1945(昭和20)年8月」というキャプションがついていた。 この画像は、原爆によって刻まれた影の写真にインスパイアされたアメリカ在住のMark Slone氏が制作したものだ。 自身のウェブサイトでこの作品(オリジナルはカラー)を公開している。 縄を跳ぶ少女の足元の左側に見える黒い石は、作者が広島平和記念公園・原爆死没者慰霊碑をイメージしてつくったものだ。「安らかに眠ってください 過ちは繰返しませぬから」と刻まれている。
作者はアメリカに住むMark Slone氏
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、作者のSlone氏に取材した。Slone氏は2005年までNASA(米航空宇宙局)のエンジニアを勤めていた。趣味でCGを使ったアートを作っており、この作品は2002年制作だという。 作ったきっかけについてSlone氏はこう答えた。 「残念ながら私は日本に行ったことがありません。(中略)原爆による影の写真や本を見たのは小学生の時でした。その時、被爆した人々が経験したことを想像してみようと思ったのを覚えています」 「『凍りついた瞬間(Frozen Moment)』というテーマのCGIのコンテストがあり、この作品を作ることを思いつきました。友人たちに見せたところ、誰も核の影を意識していないことがわかったので、応募作品に添付した文書にそのことを書き加えました」 Slone氏は、時間をかけて試行錯誤を繰り返しながら制作したことを自身のウェブサイトでも紹介している。 Slone氏の作品は、光の反射を忠実に再現してリアルな画像を制作するPOVというCGプログラムで制作された作品のコンテストで1位になった。