【連載】会社員が自転車で南極点へ7「大氷原でガイドとの破局」
真っ白な世界に一人取り残される
【連載】会社員自転車で南極点へ7「大氷原でガイドとの破局」
ガイドのエリックの走行スピードは、思いのほか速く、自転車にすら乗ることがままならないサラリーマンの僕は、彼に追いつくことができなくなっていた。彼は振り返ることもなく、そのまま、雪原の中へと消えて行った。僕は真っ白な世界に、たった一人、取り残された。
テント撤収時に芽生えた不信感が徐々に大きく
「まずい・・・非常に、まずい」。エリックを見失った僕は、少なからず焦っていた。あたりまえだが、南極大陸には、道など存在しない。自分の位置を把握した上で、コンパス等で進行方向を確認しながら進んでいくのだ。少し進んではコンパスを確認、また、少し進んではコンパスを確認。こういった軌道修正を何度も繰り返しながら、徐々に南極点に近づいていく。 そのコンパス係であったエリックが消えてしまった。もちろんGPSは僕自身でも持っていたので、最悪一人でも旅を続けることはできる。しかし、装備は二人で共有おり、水をつくるための火器はエリックが持っている。だから、ここで彼と離れるのは、非常にまずかった。 「なぜ、エリックは僕を待ってくれないのだろう?」 自分の中で、朝のテント撤収時に芽生えた不信感が、徐々に大きくなっていくのを感じた。そして、その増幅を抑えるには、状況が悪すぎた。僕は彼に少なくないお金を払っている。彼はそれを知っているはずだ。ならば、どうして、彼は協力してくれないのだろう?
ガイドの言う事は絶対だ、そうでなければ旅行は中止する
荷物の配分にしたって、そうだ。「テントとペグ、ポールはYoshiがもっていてくれ」、そうエリックに言われた時「明らかに僕が重いだろう」と思わずにはいられなかった。 ならば燃料のガソリンは彼が持ってくれるのかと思ったが「燃料は半々にしようぜ」と言われた。更に今日の朝になって「通信機器も持ってくれよ」と、突然エリックが言いだした。 通信機器は、イリジウム携帯電話、発電機器、バッテリー等が入っており、2kgはある。荷物の配分は事前に決めていたのに、何故そんなことを今? ・・・僕には理解ができなかった。 「俺はガイドだ。 ガイドの言う事は絶対だ。 従ってほしいし、そうでないならば、この旅行は中止する」 旅行前にエリックから言われた発言が脳裏をよぎる。ガイドってなんだろう? ソロでやった方が、荷物、軽いんじゃないか? そう考えだすと、だんだん、腹が立ってきた。腹を立てては見たが、その怒りをぶつける相手は、遠く彼方にいるのであった。 「くそ・・・」 「くそぉ・・・」 僕は雪原を蹴りあげた。 小麦粉のような小さな雪の粒が宙を舞い、まるで他人事のように、キラキラと美しく輝いた。