自民党の要望書でテレビの現場はますます「無難に」「わりきる」報道へ ── 水島宏明氏に聞く(4)
衆院選に先立ち、自民党がNHKや在京民放テレビ局に対し選挙報道の「公平中立、公正」を求める要望書を出しました。昨年の参議院選挙直前に自民党が行った「TBSへの出演・取材拒否」や、テレビ朝日の「椿問題」(1993年)など、政治とテレビはいつも微妙な力関係にあります。なぜ、テレビの選挙報道は中立性や公正さが求められるのでしょうか? 現状のテレビ報道のあり方、課題は何なのでしょうか? 元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクターで法政大学社会学部教授(テレビ報道)の水島宏明氏に聞きました。 --------------- 今回、自民党が主要なテレビ局とNHKに「公平中立、公正」を求める要望書を出しました。一見、「もっともな要望」のように見えます。しかし、大きな問題はこの要望がかなり細かい点にまで及んでいることです。出演者の発言回数や時間、ゲスト出演者の選定、テーマ選び、街頭インタビューや資料映像の使い方にまで「公平中立、公正」を求めている点です。 テレビ報道の現場で仕事をした経験で言えば、これは実現不可能なことを要望したものだと言うことができます。たとえば、生放送で出演者の発言回数を厳密に均等にすることは不可能です。となるとすべてをVTR収録で、ということになって、テレビらしさを失うことになります。政見放送のような「機械的な公平」をやれと言っているのに等しいのです。そうなればテレビというメディアの特性を失った放送をやれ、というのです。 またゲスト出演者の選定についての「公平中立、公正」も、実現不可能な要望です。どのコメンテーターが何党寄りなのかどうかという点はよほど支持政党を明確にしている人でない限りは客観的に明らかではありません。現在のように争点が多い時代になると、特定の問題については与党に近くても別の問題では野党に近い主張を持つ人、というコメンテーターは少なくありません。誰と誰を呼べば、「公平中立、公正」になるのか。テレビ報道の仕事を長くやった私もイメージがわかないどころか実現不可能だと感じます。 もし私がこの要望を満たそうとすれば、明確に自民党支持のコメンテーターは必ず1人は置くことで後からクレームが来るのを避けようとするだろうと思います。でもそうなると、本当の意味で「公平中立、公平」にするには主要政党の数だけ、それぞれの政党を支持するコメンテーターを1人ずつ置かなければならなくなります。