FPM田中知之さんの宝物、1950年代製狼柄のネルシャツ
常に独自の視点で独自の音楽を生み出していくDJとして世界中で活躍する田中知之(FPM)さん。音楽のみならずファッション、時計、クルマ、グルメとオールジャンルでの博覧強記を駆使した田中流「男の定番」をご紹介する連載です。
世界を舞台に活躍するDJ田中知之(FPM)さんが自らの美意識に叶った「男の定番」をご紹介する連載。今回のテーマは……。
■ Theme●「1950年代製狼柄のネルシャツ」
1950年代に誕生し、瞬く間に世界を席巻したロックンロールは、単なる音楽のいちジャンルにとどまらず、カルチャー全般を巻き込む大きなうねりとなって、当時の若者のライフスタイルを形成していったのはご存知のとおり。 特にファッションにおいては、それまでの流行とは明らかに違う多大なインパクトをもったスタイルや嗜好が次々と誕生。例えば、黒とピンクのツートーン使いや、大胆なアトミック柄、さまざまなアニマル・プリントなどをあしらったアイテムの数々は、そんなロックンロールを奏でるミュージシャンやファンに着用され、時代を彩った。 たまに古着屋で当時のヴィンテージを見かけて、そのぶっ飛んだセンスに何度も驚愕したのだが、今回紹介するシャツもそんな時代が生んだ一着だ。
黄と黒の総柄は、一見、豹柄か虎柄のようだが、よく見ると狼の頭と毛並みの緻密なイラストがプリントされている。素材はコットン・フランネル、つまりはネルシャツ。トップボタンがループ留めになった開襟仕様で、少し長く大きい襟の形状は、1940年代のパターンを継承しているとも言えるが、恐らくロックンロール黎明期である1950年代中頃に作られたモノ。 古着マニアにはバイブルとも言える田中凛太郎氏によるレアな古着写真満載の大判の書籍『MyFreedamn!』の第6冊目 、ロックンロール・ファッション特集号で、私はこの狼ネルシャツの緑と茶のヴァージョンが掲載されているのを見て以来、長らく恋い焦がれていたのだが、有名なヴィンテージ・バイヤーであるブライアン氏のLA・シルバーレイクにあるウェアハウスを訪れた時に、この阪神タイガース配色の自分サイズを発見、譲ってもらうことに成功した。 WEB検索によりどんな情報でも手軽に手に入る現代にあっても、このシャツの情報や写真はほとんど見受けられない。それくらいレアな存在なのだろう。古着屋を長らく経営する友人にたずねても、ほかにも朱色と紺の配色もあって、裾にリブが付いたプルオーバーのタイプや、シャツ・ジャケット型も存在する、くらいの情報を聞き出すのが精一杯だった。 ただ、日本の人気ブランドのテンダーロインが、2010年代から数シーズンにわたり、オリジナルをベースにした精度の高いオマージュと言える狼柄のシャツをいろんな素材やヴァージョンでリリースしており、中古市場を探せば、まだ比較的容易に入手できるという情報を最後にお伝えしておく。