9歳で失った右足「自由な移動」を夢見て華人起業家が開発した「ロボット義足」 ものづくりとイノベーション、日中の強みを融合
義足に出会ったのは24歳の時だった。引っ越しの手続きで訪れた区役所の職員が義足の利用者で、助成制度を教えてもらった。トレーニング期間を経て義足で歩いてみると、15年ぶりに両手が解放され「生活が180度変わった」と感じた。 修士課程修了後は日本のメーカーに就職した。学生時代は大学と家との往復が主な行動範囲だったが、社会人になると通勤などの人混みの中での移動や出張の機会も増え、従来の義足では疲れや不便さをたびたび感じるようになった。 当時は、動力を持った義足は欧州メーカーなどごく一部のものに限られた。約1千万円と非常に高価で、仕様も十分ではなかった。「自分の手でよりユーザー目線の新しい義足を開発し、課題を解決したい」との思いから2015年に東大の博士課程に入り、ロボット義足の開発を本格的に目指した。2018年には「BionicM」を創業。社名は「Bionic(生体工学)」に、「man(人間)」と「mobility(モビリティー)」の「M」を組み合わせた。
▽「目標はテスラ」義足への考え方を変えたい 開発は試行錯誤の繰り返しだった。ユーザーの動きに合わせて義足を制御しなくてはならないが、タイミングが合っていないと、逆に邪魔な存在になる。実際に義足のユーザーに障害物があるところや長距離を歩いてもらうなど、さまざまな環境下で使用してもらい改良を重ねた。15人いるスタッフの半分以上は日本人で「日本人の細部へのこだわりや品質追求への姿勢には驚かされた」と振り返る。 昨年1月に次世代義足「Bio Leg」を製品化。現在、本体はコスト面を考慮して中国の広東省深圳市で製造し、半導体など精密部品は日本製を多く使用する。「人に見せたくなるような、かっこいい義足を作りたい」と語る。強化プラスチックの本体をサイボーグのようなメタル調にするなど、デザインも重視した。価格は300万~400万円程度に抑えた。 孫さんは日本と中国の長所を融合させることの意義をこう語る。「日本人は丁寧で品質の高いものを作るが、スピーディーに世の中に出し、変化に応じてアップデートするやり方は中国人の方が慣れている。それぞれの強みをうまく合体させることができたらいい」