“日本育ち”のカナダ人エンジニアがスーパーフォーミュラにカムバック。WECトヨタで共に戦う小林可夢偉も絶賛する逸材「8号車のドライバーが初めて『良い!』と言った」
大嶋和也の1台体制でスーパーフォーミュラを戦うdocomo business ROOKIEが、海外から新たにエンジニアを招聘した。それがWEC(世界耐久選手権)でTOYOTA GAZOO Racingのエンジニアを務めるライアン・ディングルだ。 【動画】レーシングカーに感情が!? スーパーフォーミュラを活用した“人工自我”研究の進捗を東大が発表 海外からやってきたと言えど、ディングルは“日本育ち”のエンジニアだ。カナダ生まれのディングルは全日本F3からキャリアを始め、その後国内トップカテゴリーに。スーパーGTではレーシングプロジェクトバンドウやARTA、スーパーフォーミュラではチームルマンやKCMG、TEAM MUGENなどで活躍した。そして昨年からは日本を離れ、トヨタのエンジニアとしてWECを戦っているのだ。 そんなディングルは今季、WECと並行してスーパーフォーミュラにも携わることになった。所属チームはdocomo business ROOKIEで、チーム内ではアドバイザー的な役割を担うことになるようだ。石浦宏明監督も「(ディングルには)データを見てもらって気付いたところを伝えてもらう」と彼の役割を説明している。 「WECでのトヨタの仕事とは全く別だけど、また日本に戻ってくるチャンスをもらった。アドバイザー的なポジションをもらえてとても嬉しい。僕はルーキーレーシングのエンジニアリング面強化を助けるためにここにいる。今年とその先を見据えて、より良いやり方を確立するためだ」 ディングルはそう語る。 「僕は日本のレースに関わり続けたいと思っていたので、この機会をもらった時は喜んで受け入れた。いつかは戻りたいと思っていたけど、こんなに早く戻ってくるとはね。将来に向けて何かを築き上げて、あわよくば日本にフルシーズン復帰するチャンスだ。僕の妻は日本人だしね。もちろん今はWECに全集中しているしそれが最優先だけど、できれば日本に来るつもりだ」 ドライバーの大嶋とは、チームルマン時代に共にスーパーフォーミュラを戦った経験がある。「彼とまた仕事ができるのは楽しみだ。当時の僕たちはなんとか表彰台には上がれたけど、“やり残した仕事”がある。今は良い方向に進んでいると思うけど、僕もそこに貢献して大嶋がいるべき場所、つまり表彰台に戻すことができればと思っている」とディングルは言う。 一方の大嶋も、ディングルの貢献を楽しみにしている。彼は次のように語る。 「彼はすごくドライバーの意見を聞いてくれるエンジニアです。彼が成長している段階から一緒にやってきたので、また一緒に働けることはすごく嬉しいです」 「僕と離れた後も色んなチームで経験を積んできていて、成長しています。今回も色んな意見をバンバン出してもらっていて、テストに向けてのモチベーションも高いので、今まで気付かなかった部分が出てくることが楽しみです」 そしてWECトヨタのチーム代表兼7号車のドライバーの小林可夢偉も、KCMG時代にディングルと仕事をした経験がある。彼によると、ディングルの能力はWECのドライバーからも称賛されているという。 「8号車はエンジニアに求めるもののレベルが高く、要求が厳しいことがありますが、その8号車のドライバーが初めて『ライアン、良いよ!』と言ったんです」 小林はそう語る。 「(8号車のドライバーが)文句言ったら俺のクルマ(7号車)に連れてくるって言ってますし(笑)。そのくらい僕は彼がWECチームに来てくれたことを感謝しているし、評価しています」 またカナダ人エンジニアが日本で経験を積んで世界選手権に挑戦するというディングルの例はいわゆる“逆輸入”的な流れとも言えるが、ディングルが日本での経験を経て培ったマインドセットが欧州的なトヨタWECチームに新しい風を吹かせていると小林は言う。 「彼は新しい空気を入れてくれます。例えば、テストが終わって自分のPCを閉じたら帰るのがヨーロッパのエンジニアですが、彼はひとりだけ、メカニックと一緒に(車両や機材の)積み込みを手伝ってくれます。日本でそうだったからですよね」 「それで『なんで?』と聞くと『その後のビールが美味いから』って。そのためにメカニックと汗を流す……良いじゃないですか」 「僕は日本でやってきたエンジニアも、英語さえ喋れればWECはひとつの夢、目標になり得ると思います。F1ではないけども、WECも色んな技術的設備を使ってエンジニアリングできる環境ですから」
戎井健一郎
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