スポーツカーの「失われた10年」 ポスト・エコカーで復活なるか
新時代のスポーツカー像をシミュレートする
前述の定義に沿えば、スポーツカーは実用性に妥協があるから台数が売れない。こういう状況で各メーカーが問われているのは、いかに採算を合わせながらスポーツカーを成立させるかだ。その場合、アプローチとしての基本構成の選択肢は沢山あるが、主なものを挙げてみる。 ・FFのままスポーツカーを作る ・FRのコンポーネントを開発してスポーツカーを作る ・FFのコンポーネンツを流用してミドシップスポーツカーを作る ・ハイブリッド技術を使ってスポーツカーを作る ・4WDと駆動制御を使ってスポーツカーを作る 過去の記事で取り上げたもので言えば、FFのままスポーツカーを作ろうとしているのはダイハツ・コペン。FRのコンポーネンツを開発しているのはマツダ・ロードスター。ハイブリッド技術を使うのがホンダNSX。そしてFFコンポーネンツを流用して作られたミドシップがMG-Fだが、この系譜は現在途絶えている。もしかするとS660がこの後を継ぐ可能性がある。ロータス・エリーゼやポルシェ・ボクスター/ケイマンあたりもこれに近いかもしれないが、量産車かと言うと難しい。そして記事で取り上げてこなかったが、4WDを使うのは最近生産中止が決まったランサーエボリューションやインプレッサWRCというところだろう。
ダイハツ、マツダ、ホンダ それぞれのアプローチ
かつて、安価なコンポーネンツの供給源を失ってFRスポーツは淘汰されだ。代わりに登場した安価なFFのコンポーネンツを使ってミドシップ化する試みも失敗に終わった。ここで手詰まりとなって一旦はライトウェイト・スポーツという種全体の大淘汰に至ったわけだが、1989年にマツダがそこに依然需要があることを証明してみせた。競合が誰もいなくなったマーケットで、2座スポーツのマーケットを独占することでロードスターはビジネスとして成立した。 もちろん、同じ手法で複数社が同時参入すれば、マツダも巻き込んで全員討ち死には見えている。では一体どうするのか。一番手堅いのは、ダイハツ・コペンの様に、FFのまま出来る限り走りの性能を磨き上げることだ。かつてロータスの2代目エランがFFながら世界を驚愕させるハンドリングを実現したことからも、これはある程度の成功が見込める手法だ。 しかしながらスポーツカー志向のユーザーにはFFレイアウトは受けが悪い。最大の理由は、運転のメソッドとしても曲がるという操作での自由度が低いことだ。曲がり始めたらタイヤの能力に余剰が出るまで待つ受動的なスタイルにならざるを得ない。もうひとつの問題はFFだと、性能と実用性があまりトレードオフ関係にならず、わざわざ実用性をスポイルしたスポーツカーにする意味が薄れることもある。その結果ハッチバック実用車のスポーティグレードとの差別化が難しくなる。一言で言えば「特別感」が不足しているのだ。だだし、これも商品企画の見せ場でもあり、例えばダイハツ・コペンの場合アルミの骨格フレームを採用することで、FF乗用車とは別物であるスポーツカーとしての意義を作り出している。