「パワハラ」の提唱者が警告…!「ハラスメントという言葉を使わない方がいい」と語る”意外”な理由
お互いを攻撃し合う社会
二十年前は、職場で灰皿を投げつける上司や、長時間働かされてつぶれてしまう社員がとても多かったので、パワハラという言葉を提唱しました。当時は、わかりやすく問題提起をする必要があったんです。 【一覧】えっ、これもダメなの!?…「新型ハラスメント」44種類 でも、今は逆ですね。「ハラスメントという言葉はなるべく使わない方がいい」と思うほどです。 ――そう語るのは、厚生労働省でハラスメント対策委員会の委員を務めた岡田康子氏だ。ハラスメント防止の啓発活動に携わる株式会社クオレ・シー・キューブ会長で、パワハラという言葉を作った、ハラスメント対策・研究の第一人者である。 その岡田氏が、なぜ自身の活動と矛盾するともいえるような考えに至ったのか。 パワハラとは、職場で権力(パワー)のある人が、自身の立場を使って嫌がらせをしたり、苦痛を与えたりすることです。英語のBully(いじめ)に近いですが、日本独自の言葉(和製英語)です。'20年にはパワハラ防止法が施行されています。 最近は、職場でのあからさまな暴力や暴言は少なくなりました。でも、イライラしないわけではないので、陰湿な言い方になっていると感じます。たとえば、相手を注意せずに「あなたはどう思う?」「それはどうして?」などと冷静に質問し、それが実は詰問調で精神的なダメージを与えるのです。こうした言動が威圧的であることに無自覚な上司も少なくありません。 厚労省の統計では、ハラスメントの相談件数は毎年記録を更新しています。なかでも最も多いのがパワハラなのです。
「何でもハラスメント」の生きづらい社会
――近年は「それ、〇〇ハラです」と訴える人が増えています。なかには、セキハラ(口や鼻を覆わずに咳やくしゃみをくり返す)や、フキハラ(不機嫌な態度や表情・ため息をくり返す)といった「新種のハラスメント」を挙げる人もいます。 そういう人も多くなっていますが、自分が不快に感じることに名前がつくことで安心できる面もあります。でも一部には、相手のせいにして自分を優位な立場に置きたい人もいるようです。相手を攻撃することで、自分を守りたいのです。 〇〇ハラという言葉が流行し、なんでもハラスメントと決めつけ、互いに攻撃し合うこうした風潮は、よくないですね。企業も過剰に対応すると、加害者と被害者を分断させてしまうことにもつながります。 ――「ハラスメントの告発が増えて対応に困っている」という企業の声を耳にしますが、なかにはハラスメント未満のケースも多いようです。 「不快なことをされたら、なんでもハラスメントになる」という勘違いが生まれているのだとしたら、そんな社会は生きにくいですね。 そもそも、企業が配慮しなければならないのはセクハラ、パワハラ、マタハラ、就活ハラ、そして10月に都条例になったカスハラのみです。これらについては、社内で訴えがあれば、企業は対応する義務があると法律で定められています。 ハラスメントは大ごとになるほど、むしろ本当の問題解決が難しくなることもあります。本来は、問題が小さいうちに、当人同士や職場内で解決できる道を探るほうがいいのです。 「ハラスメントとして案件化する」と、互いにプライドがあるので引き下がれず、人間関係を修復できなくなり、職場はぎくしゃくする一方です。安易に「ハラスメントだ」と言うことが、逆に事態を悪化させることがあるのが、難しいところです。 何かあったとき、すぐに「ハラスメントだ」という話になってしまうのはなぜなのか。それを防ぐためのヒントとは――。後編記事『不満も文句も出ない職場でこそ、ハラスメントの告発が多発する…!「パワハラ」提唱者が教える【上司が注意すべきポイント】』へ続く。 「週刊現代」2024年11月16日・11月23日合併号より
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