ラウ・アレハンドロ「僕は日本の大ファン」常田大希とのコラボ、新作『Cosa Nuestra』を語る
新作『Cosa Nuestra』で思い描いたビジョン
―新作アルバムの『Cosa Nuestra』についても聴かせてください。エレクトロニックで未来的なイメージの前作『Saturno』と対称的に、生楽器が多く、ラテン・ミュージックの歴史や成り立ちへのオマージュを感じられるものになっているように思います。どんなイメージから新作を作っていきましたか? ラウ:そう、君の言うとおり『Saturno』は未来的でエレクトロニックなサウンドで、その対極にあることをしたいと思った。だから生楽器を使ったオーガニックな音楽性にしようと思ったんだ。そこからいろいろと考えていくうちにプエルトリコの歴史に行き着いた。自分たちの島から生まれた最初の音楽であるフォルクローレ、アフリカ先住民、そしてヨーロッパとのミクスチャー・サウンドを追求しようと思った。それから、プエルトリコにはニューヨークやアメリカに沢山の移民を送り出した歴史がある。そこでも文化のミクスチャーがあり、サルサのような多くの音楽のムーブメントが生まれた。そういうところを取り込もうと思ったのが今回の新作のプロジェクトを展開する出発点になった。だから、前回のプロジェクトとは文字通り正反対なんだ。よりオーガニックな音楽にしようと思った。 もちろんデジタルとの融合もある。僕らは現代社会に生きているわけだから、そことの繋がりも保ちつつ、過去からのインスピレーションを得たものにしようと思った。そして、このコンセプトは音楽だけではないんだ。ビジュアルやミュージックビデオに登場する人物の姿形や振る舞いも、アルバム全体のコンセプトに見合ったものになっている。音楽の方向性と映像が一体になっているんだ。 ―「Pasaporte」が象徴するように、旅というモチーフもアルバムのひとつのキーになっているのではないかと思いました。そのあたりはどうでしょうか。 ラウ:そうだね。「Pasaporte」はエレクトロニック・ミュージックなんだけど、歌詞の最初のフレーズは「Todo Tiene Su Final」というサルサの曲(ウィリー・コロン&エクトル・ラボー)にインスパイアされたものなんだ。僕には世界中を旅することができるという恵まれた環境があって、それがスタジオで作業しているときにリズムを感じさせてくれた。旅というものはスタジオでの僕の音楽的なパフォーマンスに多くの影響を与えていると思う。 ―「Touching The Sky」という曲についてはどうでしょうか。この曲はファンキーなギターのカッティングが印象的ですが、これはどんなアイディアから生まれたものでしょうか。 ラウ:「Touching the Sky」は、『Cosa Nuestra』のシーズンの最初の曲で、これはニューヨークにインスパイアされた曲なんだ。ニューヨークの歴史やブロードウェイの『ウエスト・サイド・ストーリー』だね。ジャケットもニューヨークの街並みをイメージしている。2021年に出した「Todo de Ti」という曲がエレクトロニック・ファンクなスタイルの夏向きなアップビートで軽快な曲で。それがファンに受け入れられて大ヒットしたというのもあって、そのスタイルにまた取り組んだ曲でもある。この曲はビジュアルや衣装のスタイルもニューヨークのイメージが大きいね。 ―アルバムの収録曲「Mil Mujeres」はメレンゲからドラムンベースに展開していくとても刺激的なスタイルの曲です。これは東京で作ったということですが、どういう風に作っていったんでしょうか? ラウ:この曲のベースはエレクトロニック・ミュージックで、映画『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』にインスパイアされたんだ。だからBPMがかなり速い曲になっている。メレンゲというのはドミニカ共和国やプエルトリコのトロピカルな音楽ジャンルで、多くのオーガニックなサウンドや民族楽器が使われている。その速いリズムの中にハウスやエレクトロニック・ミュージックの要素が入っている。今回のプロジェクト全体で試みていることでもあるんだけれど、この曲ではオーガニックなサウンドとデジタルサウンドを融合させることに成功したと思う。ひとつの曲の中で別のことをして展開していくのが好きなんだ。 あと、この曲は日本で運転しているところを想像しながらイメージを膨らませていった。ドラムンベースは街を猛スピードで走っているような感覚を与えてくれるからね。「Mil Mujeres」というのは「千人の女たち」という意味で、歌詞は千人の女の子が追いかけてくるようなトラブルから全速力で逃げているという意味。だからとてもBPMが速い曲なんだよ。 --- ラウ・アレハンドロ 『Cosa Nuestra』 2024年11月15日リリース
Tomonori Shiba