YCAMで映画「箱男」公開 安部公房の生誕100周年【山口】
戦後の現代文学を代表する作家、安部公房(1924~93年)の生誕100周年にちなみ、映画「箱男」が、山口市中園町の山口情報芸術センター(YCAM)で公開されている。初日の10日には、メガホンを取った石井岳龍監督(67)のトークイベントがあり「原作の主題『読んだ人が箱男になる』を映画では『見た人が箱男になること』を目指した」などと見どころを語った。 原作は、73年に書かれた長編小説。段ボール箱を頭からすっぽりかぶって都市をさまよう男の記録の物語。書くことをめぐる思考が展開される前衛的な作品で、匿名性などインターネット社会の到来を予見したともいわれる。 97年に石井監督が映画化を試みたが資金難などから見送られ、今年、映画が公開された。主演は永瀬正敏、共演に浅野忠信、佐藤浩市ら。 対談相手を務めた批評家の樋口泰人さんが、作品の大きな要素に「文字」「声」「アクション」があると指摘。作中で画面に浮かぶ文字について石井監督は「原作で主人公が何かを書いている設定が大きかった。書くことが登場人物の存在の条件であることが不思議だったから映画に採り入れたかった」と話した。 実験的な原作に対し、劇中で箱男たちが戦う場面でドタバタとした動きがあることについて、生前の公房から「映画は娯楽にしてほしい」と要望があったことを明かした。 イベント後、取材に応じた石井監督は箱について「これだと思う」とスマートフォンを指さした。「暗喩とは思うが、すべてを遮断し、自分の情報空間に閉じこもって見たいものだけを見るようになった状況を表現しているのでは。現代は、予想外のものとはつながることが難しくなり、自分たちもいつのまにか箱に入っている、あるいは入れられているのかもしれない」と話した。 石井監督は、57年福岡県生まれ。石井聰亙(そうご)名義で80年に「狂い咲きサンダーロード」を発表。2010年に岳龍に改名。「パンク侍、斬られて候」など話題作を発表している。 上映時間は13~15日が午後3時10分、16日が午後5時20分、18日が午前10時半。料金は一般1400円、25歳以下、65歳以上は1000円。