「熊博」のレガシー今も 世界遺産20周年で再注目、主会場は熊野古道
来年大阪で万博が開催されるが、25年前に和歌山県紀南地方でも博覧会があった。1999年開催の「南紀熊野体験博」である。メイン会場は熊野古道。異色の博覧会が、「紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産登録20周年を機に再び注目されている。 【中辺路ウオーク開始 「令和の熊野詣」ゴールは那智の滝、和歌山の記事はこちら】 豪華な会場も斬新なパビリオンもない。舞台は熊野の大自然で、主役は地域と参加者。熊博は従来の博覧会とは全く異なる形を取った。 会場は田辺市以南の16市町村(合併前)にまたがり、面積は21万ヘクタールにも及ぶ。「従来の方法で成立するはずがない。逆転の発想が求められた」。熊博実行委員会の事務局長だった垣平高男さん(81)=串本町=は振り返る。 ■知名度アップへ 姉妹道提携 自然を舞台にさまざまな体験を用意したが、メインに据えたのが熊野古道歩きだった。ただ、当時はまだ世界遺産に登録されていない。中山道、奥の細道と並び、日本三大古道の一つとされていたものの、知名度は圧倒的に低かった。 そこで目を付けたのが、スペインの世界遺産「サンティアゴ巡礼道」と熊野古道の姉妹道提携だった。県と巡礼道が通るスペイン・ガリシア州との協定は98年、熊野古道の世界遺産登録より6年も前である。ユーラシア大陸を挟み東西1万キロ以上離れた二つの巡礼道による姉妹道提携は、大きな話題となった。 今や熊野古道は、世界から注目されている。世界遺産登録市町村の2023年度の宿泊客は約339万人。うち外国人が約28万人を占める。 田辺市とガリシア州は、15年から共通巡礼手帳を発行し、両方を踏破した「二つの道の巡礼者」を登録している。登録は8月末までに68カ国7237人に上る。 ■各地に「遺産」 熊野詣での道中には「熊野川下り」がある。田辺市の熊野本宮大社に参拝後、新宮市の熊野速玉大社を目指すルートで、これも熊博で再現した。熊博終了後に事業化され、熊野詣での魅力的なルートとして利用されている。 各市町村で文化や歴史、自然を素材にしたさまざまな体験型観光メニューも生まれた。23年度の体験観光利用客は約30万人いる。 垣平さんは「通常、博覧会終了後は跡地利用に悩むが、熊博は逆だ。語り部育成、各地の体験観光、イベント、国道311号の整備など多くのレガシー(遺産)が現在も生きている。何より大きいのは、熊野が自信と誇りを取り戻すきっかけになったこと。世界遺産登録の原動力になった」と話す。 熊博実行委員会事務局メンバーの「同窓会」が9月末に田辺市内であった。四半世紀を経ても、メンバー74人中36人が参加し、思い出を語り合った。
紀伊民報