ハリウッド年末商戦にまさかの番狂わせ 『ソニック × シャドウ』が『ムファサ』を破る
北米映画興行には、ときどき思ってもみない異変が起こる。ホリデーシーズンの本番に突入した今週が、まさにそんな“異変の週”だった。 【写真】『ソニック × シャドウ』カッコよすぎるシャドウ(全5枚) ひとつは、日本発のゲームキャラクター「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の映画シリーズ最新作『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』が、ディズニー『ライオン・キング』シリーズの最新作『ライオン・キング:ムファサ』を破り、初登場第1位に輝いたことだ。 『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』は北米3761館で公開され、週末3日間で6200万ドルを記録。事前の予測を上回り、第1作『ソニック・ザ・ムービー』(2020年)を超えるオープニング成績となった。かたや、『ライオン・キング:ムファサ』は北米4100館でオープニング興収3500万ドルとやや厳しい滑り出しだ。 今年のクリスマス~ニューイヤー商戦は、『スター・ウォーズ』や『アバター』あるいはマーベル映画といった大本命が不在の状況。そのぶん、感謝祭シーズンに『モアナと伝説の海2』や『ウィキッド ふたりの魔女』が劇場を盛り上げたわけだが、背景には2023年のストライキによるスケジュールの大幅変動がある。したがって、この冬は『ソニック × シャドウ』と『ライオン・キング:ムファサ』が市場を引っ張る役目を担っているのだ。 それにしても、『ソニック × シャドウ』が『ライオン・キング:ムファサ』を破り、これほど大きな差をつけたこと、そして『ライオン・キング:ムファサ』が前作の“超実写版”『ライオン・キング』(2019年)から大きく数字を落としたこと(詳細は後述する)は、いずれも予想できないことだった。 ひとつの驚きは、『ソニック・ザ・ムービー』シリーズが、この4年間でファミリー層の心をつかむ人気ブランドへと成長していたことだ。第1作は2020年2月、第2作『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』は2022年4月の北米公開だったが、今回は満を持してホリデーシーズンに殴り込みをかけたのである。 当初はシリーズ史上最低のスタートと予想されていたが、その後ぐんぐん数字を伸ばし、結果的には12月公開のPG指定作品として『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』(2005年)以来およそ20年ぶりの好記録を樹立。観客の男女比でいえば男性客が60%と多数派だが、老若男女およびファミリー層をすべて取り込むことに成功したという。 日本を含む多くの海外市場では12月27日公開だが、製作費1億2200万ドルという予算を鑑みても、北米でのスタートダッシュは幸先がいい。Rotten Tomatoesでは批評家スコア86%・観客スコア98%と、ともにシリーズ史上最高の評価を獲得。出口調査に基づくCinemaScoreでも「A」評価をつかんだ。口コミ効果の追い風を受け、ホリデーシーズンを駆け抜けることになりそうだ。 一方、音速のソニックを追いかける『ライオン・キング:ムファサ』は、強い向かい風を受けることになった。本作は超実写版『ライオン・キング』の前日譚で、シンバの亡き父親ムファサとスカーの過去を描く物語。監督は『ムーンライト』(2016年)などのバリー・ジェンキンスが務め、異色のコラボレーションが実現した。 もっとも、「あの『ライオン・キング』が3DCGの“超実写”で蘇る」という強烈なアピールポイントのあった前作に比べると、どうしても引きが弱かったのだろう。初動成績3500万ドルという数字は、前作の初動成績1億9177万ドルの2割にも届かないという衝撃の結果だ。 『ソニック × シャドウ』に先がけ、本作は日本を含む海外市場でも劇場公開を迎えたが、こちらも事前の予想をかなり下回っており、海外興収は8720万ドル、世界累計興収は1億2220万ドル。製作費には2億ドルが投じられているが、コスト回収の道のりは遠い。 ただし、Rotten Tomatoesでは批評家スコア56%に対し、観客スコアは88%と高水準。CinemaScoreでも「A-」評価となっているだけに、口コミ効果次第では『ソニック × シャドウ』を猛追し、世界的に数字を伸ばせる可能性はある。昨年の『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』が、まさにそのような経緯をたどった作品だったのだ(そういえば同作も前日譚映画だったではないか)。