モスバーガー、自社農場の新規展開を休止 甘くない農業事業
農業経営の難しさは天候の不確実性にある。最近の悩みは温暖化による作物の不作だ。特に今年は、猛暑によって主力商品のモスバーガーで使用するトマトの生産量が激減した。台風などの突発的な天候不良で収穫できなくなることもある。 近澤氏によると、天候に左右されない屋内の植物工場で育てた野菜の生産が増えており、モスにも商談や売り込みがあったが、価格が高いなどの課題があり、採用を見送っているという。今後について「人工知能(AI)やドローンなどを活用したスマート農業を視野に入れる必要はあると思う」と近澤氏は話す。拡大を停止したモスファームは、野菜の端境期の供給を補うための生産拠点として活用する考えだ。 外食産業などによる農業事業の苦戦について、東京農業大学国際食料情報学部アグリビジネス学科の渋谷往男教授は「多少赤字になったとしても、本業の顧客に食品の安全性をアピールできるなどのメリットが大きければ参入する意味はある」と話す。 ●20年以上赤字の農業事業 外食大手ワタミの農業事業は赤字のまま20年以上が経過した。同社が農業に参入したのは02年。現在、全国7カ所で約530ヘクタールの農場・牧場を運営管理している。ワタミの渡邉美樹会長兼社長CEOは「執念で続けている」と力を込める。 撤退を検討してもよさそうな状況だが、ワタミはむしろ足元で提携農家を増やしている。25年2月以降には、新たに40~50軒の農家と提携する考えだという。その大きな理由が、今年10月に発表したサンドイッチチェーン大手サブウェイの展開開始だ。ワタミは米サブウェイと日本国内でフランチャイズチェーン(FC)展開する契約を結び、同社の日本法人を買収した。 今まで、ワタミの自社農場で生産した作物のうち、約5割をグループの外食事業で利用していた。これらを使った冷凍食品の商品化などにも乗り出したが、レタスなどの葉物の冷凍保存が難しく、販売は軌道に乗らなかった。自社で使い切れない分はスーパーなどに卸していたが「買いたたかれるのでできるだけ自社で使用したい」というのが渡邉会長の考えだった。今回、野菜を使用する商品を多く持つサブウェイがグループ入りしたことで、自前の野菜の用途は広がる。 渡邉会長は「農業事業は来年黒字化するだろう」と見通しを語る。農業に詳しい日本総合研究所創発戦略センターチーフスペシャリストの三輪泰史氏は「サブウェイの商品は野菜を多く使用している。ワタミの主力業態である居酒屋よりも農業事業との相性が良い。相乗効果も見込めるだろう」と言う。 ●円安でコメ市場への参入に勝機 ワタミが農業事業で次に注目しているのがコメの生産だ。おにぎりの専門店がインバウンド(訪日外国人)に注目されるなど、国内外で引き合いが強くなってきた。渡邉会長は、今後10年は企業が農業に参入して成功するチャンスが高まると見る。「円安はまだ進みそうで、もしそうなれば収益性はさらに高まる」と言う。ワタミは管理・運営する水田を増やすため、北海道で調査中だという。 日本総研の三輪氏は「気候変動などで野菜が十分に調達できなくなるリスクが高まっている。それを回避するためのコストだと割り切り、赤字覚悟で農業に参入する企業も出てきた」と話す。今年はコメ不足による価格高騰が企業を悩ませた。一般企業が農業に参入する場合、それ自体で大きな収益を目指すというより、本業のリスク回避や付加価値向上とセットで採算を考えることが必要になりそうだ。
関 ひらら