多部未華子「きっと私もこういう風になるんだろうな」映画「インサイド・ヘッド2」で感じた未来像:インタビュー
女優の多部未華子が、映画『インサイド・ヘッド2』(公開中)に日本版声優として出演。大人になっていく主人公ライリーの感情の一つ、シンパイを担当した。本作は、『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』『リメンバー・ミー』など、数々の心温まる感動の物語を贈り届けてきたディズニー&ピクサーによる作品。どんな人の中にも広がっている“感情たち”の世界を舞台にした物語を描き、第88回アカデミー賞(R)長編アニメーション賞を受賞した『インサイド・ヘッド』の続編となっている。今回、シンパイ、ハズカシ、イイナー、ダリィの4つの感情キャラクターが新たに加わり、少し大人になったライリーの頭の中で大混乱を引き起こす。インタビューでは、アフレコの裏側から、いま声の仕事で興味のあることについて話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】 ■自分の都合の悪いこととか忘れられるんです ――多部さん演じるシンパイがとても魅力的でした。演じる、表現されるにあたり試行錯誤されたとのことですが、監督とはどのようなことを話されましたか。 オリジナルの英語版はハスキーといいますか、ちょっとしゃがれた感じの声が印象的だったので、少し癖のある声の方がいいんじゃないかというお話がありました。台本でいったら3、4ページくらいかな? 録り始めてちょっとして監督からそういった指示があり、そこからは監督とお話ししながらアフレコしていく感じでした。 ――ということは、準備していたものとは違う感じになったんですね。 はい。シンパイ役のオーディションで、私の声を本国に送って嬉しいお返事をいただいたので、自分がオーディションのときに録っていた声を思い出しながら、本番も進めていったのですが、「こういう感じかな?」と試行錯誤しながら、その場で声を構築していきました。 ――完成したものをご覧になって、いまどのように感じていますか。 こういった取材で、「多部さんだと思わなかった」とおっしゃっていただくことが多くて、シンパイというキャラクターを成立させることはできたのかなと思っています。 ――本作に登場する感情がどれも悪者ではなくて、それぞれがライリーのことを思っているような描かれ方をしているのがすごく印象的でした。完成披露舞台挨拶でライリーの両親にも感情移入できるとおっしゃっていましたね。 ライリーが思春期に入ったシーンで、両親の感情たちが「始まった。これだ!」みたいなことを話していて、両親がライリーに対して言葉を用意していた、というのがとても面白かったです。私にはまだ思春期の子どもはいないのですが、自分と重ねたときに、きっと私もこういう風になるんだろうな、自分の母親もそういう時があったのかな、家族の会話ってきっとこういう感じなんだろうなとか想像していました。頭の中で考えていることは、どの家族も共通しているんじゃないのかと思いましたし、思春期の子どもとの会話となると、一言一言にとても気を遣ったりするんだろうなと思いながら観ていました。 ――ちなみに多部さんの10代の頃はどんな感じだったのでしょうか。 私の中ではライリーのような時期はなかったと思います。もしかしたら母に聞けば「あったよ」と言われるかもしれないのですが、自分ではなかったんじゃないかなって。私には兄がいるのですが、その兄の反抗期を間近で見ていたので、2人目の私はその姿を見て計算が働き、そんなに激しい反抗期はなかったと思います。でも、中学生の頃からこのお仕事を始めて、慣れない環境と思春期がちょうど重なる時期だったので、うまくいかなくてイライラみたいなのはあったと思います。それを知らず知らずのうちにぶつけていたかもしれないです。 ――今回の作品の中で嫌な思い出や記憶を捨ててしまうシーンがありましたが、多部さんが捨ててしまいたい記憶とかありますか。 細かくはいっぱいあると思うのですが、私は割と自分の都合の悪いこととか忘れられるんです。 ――都合の悪い記憶とは? たとえば苦手な人が目の前に現れたら、出会わなかったことにしてしまったり(笑)。その人に傷つくようなことを言われたりしても、その人と出会ったことすら忘れようって思うようにしたり。よく知らない人に何か言われて傷ついていてもしょうがないので、そういうのは綺麗さっぱり忘れようって(笑)。 ■美術館の音声ガイドのナレーションをやってみたい ――ライリーが少しずつ大人になっていく過程で、新たな感情としてシンパイは出てきます。多部さんご自身はお仕事やプライベート、お忙しい毎日の中で、心配という感情が出てくる場面はありますか。 この先の人生で心配というのはあまりないのですが、旅行などで心配になることはあります。だからいつも荷物がすごく多くなってしまうんです。私はこれもあった方がいいか、これも一応持っていくか、というぐらい心配性なので、荷物をコンパクトにまとめられる人がすごく羨ましいです。 ――絶対使わないけど、よく持っていってしまうものは? アロマキャンドルとか入れてしまいがちです。それは泊まる部屋が臭かったらどうしようみたいな不安からなんですけど(笑)。 でも、結局使わないんです。 ――本作では感情がたくさん登場しますが、ご自身の中でよく出てくるなというキャラクターはいますか。 ダリィは常にいます。私は本当はじっとしていたい願望があるのに、いろいろ予定を詰め込んでしまうタイプなんです。本心はどっちだろうといつも思います。明日どこにも行きたくないけど、 すでにいっぱい予定入れちゃってたり、気持ちと行動が矛盾してるんです(笑)。でも好奇心は強いので行ってみたいところとか、人に勧められたりすると行きたい!やってみたい!となるので、スケジュールの隙間に全部予定を入れちゃって、当日になって「ダルいなー」って思うけど、行ったら行ったで楽しんでいます(笑)。 ――ナレーションなどのお仕事もされていますが、声のお仕事でやってみたいものはありますか。 声のお仕事って本当に独特というか、演じるというところでも違うフィールドだなと感じています。お仕事をさせていただくたびに学びがありますし、私に何ができるだろうと、自分の引き出しを出すのに精一杯なんです。役として収録している時もそうですし、ナレーションの収録の時も、声だけって本当に難しいなと毎回思うので、声のお話いただく度に本当にありがたいなと思っています。 難しいなと思いつつ、“言えば叶う”ってことがあると思うので、いま興味があるのが美術館の音声ガイドのナレーションです。過去に器のナレーションをやったことはあったのですが、画家のフェルメールさんがすごく好きなので、フェルメールさんの作品のガイドとかできたら嬉しいです。 ――美術館お好きなんですね。 子どもが生まれてからあんまり行けていないのですが、美術館とか行くの本当に大好きで、よく行っていました。そこでガイド音声を聞いていて、いつもいいなと思っていました。 ――生活していく中でダリィが出てくる場面、ちょっと面倒だなとか思ってしまうとき、それを乗り越えるための秘訣はありますか? 「明日やろうはバカヤロー」という言葉をよく聞きますが、私はバカでもいいなって(笑)。明日何が起こるかわからないって言われたらそうなんだけど、よほどのことがなければ生きられると思うんです。なので、面倒くさいことは明日でもいいんじゃないかと思ったり。毎日この暑さの中で歩いてるだけでも私はみなさん頑張っていると思うので、対策として無理せず明日やればいい、やりたいと思った時にやればいいなと思います。 (おわり)