映画『まる』吉岡里帆、荻上直子「いい加減、ゆっくりすればいいのに、ずっとジタバタしています」
『かもめ食堂』『めがね』にはじまり、昨年世に放った『波紋』と、人気と評価を得続けている荻上直子監督。堂本剛へのあて書きからスタートした最新作『まる』でキャストのひとりに名を連ねる吉岡里帆とは、脚本を担当した2017年放送のドラマ作品で出会っていた。今度は監督とキャストとして、久しぶりに再会し、タッグを組んだ。そんなふたりが語る「THE CHANGE」とはーー。【第1回/全5回】 ■【画像】吉岡里帆 と荻上直子監督が登壇!堂本剛、綾野剛 、小林聡美 、森崎ウィン 、戸塚純貴と!映画「まる」公開記念舞台挨拶 「わ!監督の青い髪、ステキです!」 出演映画『まる』での取材のため、先に部屋入りしていた吉岡さんのところに、前の取材が終わったばかりの荻上監督が入ってきた。迎える吉岡さんは紫の差し色が効いたワンピース姿だ。 『まる』は、利き腕をケガしたことで現代美術家のアシスタントの職を失った沢田(堂本剛)が主人公。家の床にいた1匹のアリに導かれるように、〇(まる)を描いたことから、突如、天才アーティストの“さわだ”として祭り上げられることに。思いがけぬ評価に、沢田は逆に〇に翻弄されていく。吉岡さんは、沢田と同じアトリエで働いていた矢島を演じている。 ――本編に「ジタバタOK」という言葉が出てきます。 吉岡里帆(以下、吉岡)「あのシーンいいですよね。私、大好きです」 ――おふたり自身は、ジタバタしていると感じることは。 荻上監督(以下、荻上)「ずっとジタバタしている気がします。ずっと」 吉岡「私もです。いい加減、ゆっくりすればいいのに、優しい時間を過ごせばいいのに、と思うんですけど、全然過ごせてないです。ジタバタしてます」
ちゃんと我がままを言おうと
――「優しい時間」ですか? 自分自身に優しい時間。 吉岡「そうです。心地いいなとか、満たされているなと感じるような場所に居続けるのがあまり得意じゃないのかもしれません」 荻上「変わり続けていなければ、お客さんに楽しんでもらえない。だから自分を壊し続けようとしちゃう。私は吉岡さんが演じた矢島の気持ち、分かるんです。壊さないとダメだと思っているから。言葉にするのが難しいんですけど、他の映画とは違うものにしたい。普通じゃいけない感覚」 吉岡「分かります。私もどこかネジを取らなきゃいけないと思っています。ネジがキュっと閉まっているときがあると、“ダメだ、閉まってる”って」 ――役者さんは常識と非常識の両方を持っていないといけないと言いますね。 吉岡「私自身、常識的でいたいし、そういるほうが楽なんです。でもきっと見てくださる方々が期待しているのは、見たことのない景色とか、見たことのない表情、価値観、感性みたいなものだと思うんです」 ――たしかに観客は見たことのない景色を求めます。同時に、「共感」も得ようとします。 荻上「共感はね。考えると迷うので。作っているときは、“オレが、オレが!”って感じですよ(笑)。共感を求めようとすると“マス”(集団、大勢)でいなければいけない。それはそうした別の作品に任せておけばいい。私の場合は、“私が!”と思っていないと、それこそ埋もれてしまう感じがするんです。一生懸命、自分で我を通す。ちゃんと我がままを言おうと思って作ってます」 吉岡「そういうところが大好きです。それに監督が“自分は!”とやってらっしゃることが、いざ観客として観ると、なんだか自分のことを描いてくれている気になっちゃうんです。“ああ、この人だけは分かってくれているのかもしれない”って」 自分の我を通すことで、受け取る側が「この人だけは分かってくれているのかも」と思う。確かに、その通りかもしれない。そんな監督の“我”を、自分の「優しい時間」に安住しない俳優たちが届けてくれる。 荻上直子(おぎがみ・なおこ) 1972年2月15日生まれ、千葉県出身。94年に渡米し、南カリフォルニア大学大学院映画学科で映画制作を学ぶ。2000年に帰国。04年に『バーバー吉野』で劇場映画監督デビューし、第54回ベルリン国際映画祭・児童映画部門特別賞を受賞した。06年の『かもめ食堂』が大ヒット。その他の主な監督作に映画『めがね』『僕らが本気で編むときは、』『波紋』など。最新作は堂本剛を主演に迎えた『まる』。 吉岡里帆(よしおか・りほ) 1993年1月15日生まれ、京都府出身。2016年、NHK連続テレビ小説『あさが来た』の第108話から登場。丸メガネの「のぶちゃん」として一躍注目を集め、翌年放送の『カルテット』(TBS)で一気に知名度と評価を得るとともに、人気を獲得していった。近年の主な出演作に、ドラマ『時効警察はじめました』『しずかちゃんとパパ』『時をかけるな、恋人たち』、映画『ハケンアニメ!』『アイスクリームフィーバー』『ゆとりですがなにか インターナショナル』『怪物の木こり』など。最新公開作に『まる』。待機作に『正体』。2026年のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』への出演も発表されている。 望月ふみ
望月ふみ