思い込みからCMのフレーズを「盗作だ」と主張… 電通に“19億円”要求した男のてん末
カブって当然では?
このスローガンは著作権侵害だと主張したのが会社員のT氏。その三年前に自分が「全国交通安全スローガン」に応募した標語の盗作だというのだ。T氏の標語は「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」という五・七・五調のものだった(以下、「T標語」)。 一見すると似ているが、盗作というには無理があり過ぎる。テーマ自由の俳句ですら、類句・類想句が無数にあるというのに、テーマが交通安全に限定されている標語ではいわずもがなだろう。その可能性に思い至らない段階で、まったく冷静さを欠いている。 実はT標語は、「全国交通安全スローガン」で総務省長官賞を受賞しており、またこの公募を毎日新聞社が主催していた関係で、『毎日新聞』の一面に掲載されたことがあった。T氏からしてみれば、天下の毎日新聞の一面を飾った自分の標語に、相当な誇りがあったに違いない。この誇りが、「パクられたに違いない」という思い込みにつながってしまったんでしょうなぁ。
クレームに弱い電通
T氏のクレームを受けた電通の対応もまずかった。彼らは、CMからスローガン部分を削除するという弱腰の対応を取ってしまったのである。日和った態度を見せると、クレーマーが自信をつけ、かえって勢いづいてしまうことがある。どうやら、Tもそのクチだったようだ。 彼はこともあろうに、これまでの CM放映によって受けた損害が、なんと18億9000万円にのぼると主張し、その一部である5000万円の損害賠償金を請求する訴訟を提起したのである。 勢いづくにもほどがある。あんた、クリストファー・ノーランにでもなったつもりか!? 十数文字のキャッチコピーで、ハリウッド映画監督並みの金額を要求すんな! 裁判所に収める手数料や弁護士に支払う着手金は、請求額に応じて高くなる。T氏はこれを考慮して、18億9000万円満額の請求を避けたのだろうが、5000万円でも十分にバカ高い。T氏が提訴に際し費やした費用は、数百万円にものぼったはずだ。よほど自信がなければつぎ込めない額である。