バチバチではなくリスペクトし合う関係性――豊作世代の甲子園監督たちが“同志”から受ける刺激
今大会の2回戦で勝利して、甲子園通算勝利数最多記録を更新した西谷監督にも勝てない時代があったが、こうした仲間の存在がいたことはその記録達成過程においては少なくなかっただろう。不遇な時代もありながら、同級生とともに歴史を刻んできた。 昨今は2022年の夏、東北勢初優勝を果たした仙台育英の須恵航監督やその前年の覇者・智弁和歌山の中谷仁監督など若い世代の指揮官の台頭も久しいが、西谷監督らの世代がこうして今大会多くが顔を揃えていたという意味では面白さも光った。 吉田監督は話す。 「不思議なんですけど、負けたくないとかライバル心はないんですね。この2試合同級生と試合をさせてもらって感じたのは良いことも悪いことも背負いながら僕ら進んでるんで、お互いが苦労したものがあってここでやってるんだなっていう感覚です。同じ時代を生きた仲間なんで、どっちかっていうと、戦ってるというよりもいたわり合いがあるかもしれませんね。お互いの苦労を分かち合えるから、勝った負けたじゃないんだなって。同級生に勝ったからどんな感情になるのかなと思ったけど、嬉しいとかはなかったですね。門馬監督も今の学校で2年目ですから、これからもっとチームを強くされるんだろうなと思います」 甲子園で優勝する監督にはそれぞれ歩いてきた道のりはある。強豪校には強豪なりの苦労があり、それを知っているからこそ互いのチームをリスペクトできるのであろう。 いく分、穏やかな表情で互いについて語りあう豊作世代の監督たち。まだまだその情熱が衰えることはなさそうだ。 取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト) 【著者プロフィール】 うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。