西鉄バスジャック事件から24年 友人失い自らも重傷を負った被害者山口由美子さんが元少年との面会経て編み直す物語
2000年、当時17歳の少年による西鉄バスジャック事件の被害者となった山口由美子さん(74)=佐賀市=が、著書「再生 西鉄バスジャック事件からの編み直しの物語」を出版した。事件から24年、重傷を負い、友人を失った山口さんが、走り続けた子育て支援や事件への思いをつづった。「子育てに悩む親などいろんな人に読んでもらい、子どもが育っていく力になってほしい」と願う。 【写真】事件への思いをつづった山口由美子さん 事件は2000年5月3日、当時17歳の少年が、佐賀駅バスセンター発福岡天神行の高速バスを乗っ取った。山口さんは、友人の塚本達子さん=当時(68)=とコンサートに行くために乗車していた。少年は刃渡り30センチの包丁で山口さんの左手や頬を切りつけた。隣に座っていた塚本さんは刺殺された。 ◆ ◆ 事件後、少年がいじめを受け不登校になっていたことを知った。自身の長女も一時不登校でつらい思いをしていた経験から、けがが回復したら「子どもたちの居場所をつくりたい」と思うようになった。01年に不登校に悩む親の会を仲間と発足し、その1年後には、民家を借りて不登校の子どもの居場所「ハッピービバーク」を開設。「心を閉ざしていた子どもたちが次第に笑顔になることがうれしかった」。現在も場所を変えて活動を続ける。 少年の苦しみとその背景に目を向けるきっかけとなったのは、長女ら3人の子どもを通わせていた「幼児室」を運営する塚本さんの影響だった。常に子どもの立場に立つことを大切にしていた塚本さんは、別の少年事件について「子どものせいではなく社会をつくってきた大人の責任」と語っていたという。 ◆ ◆ 著書ではバスジャック事件の元少年との面会にも触れている。謝罪し、こうべを垂れた元少年に対し、山口さんは「つらかったね」と元少年の背中をさすり涙を流したという。「姿を見て、謝罪を受けたから自分の中でストンと落ちた。彼が社会に戻っていけると」。元少年からは後日、「自分のことを思って泣いてくれたのを見た時に、自分の罪深さと温かい思いが同時に湧き起こりました」という手紙が届いたという。 山口さんは少年の更生には教育が重要で、少年事件の厳罰化は好ましくないと語る。バスジャック事件の元少年がいじめを誰からも理解してもらえない苦しみを抱えていたように、「加害者もかつては被害者だった。加害者はまず自分の傷を癒やすことで、初めて加害性に気づくことができると思う」。一方で、手薄な被害者支援を、金銭面なども含めて見直す必要もあると指摘する。 12年には人の感性やコミュニケーションについて学ぼうと、九州大大学院に社会人入学した。今回は修士論文をベースに「一つの区切り」として本にまとめた。タイトル「再生」には、自身や不登校の子どもらも含め、みんなが問題にぶつかってもそこから立ち上がり、再出発してほしいという思いをこめた。表紙は塚本さんの長男で画家の猪一郎さんが手がけた。 書籍は四六判、210ページ。岩波書店から出版。2200円(税込み)。 (飯村海遊)