注意書きに車内アナウンス…街に溢れる“過剰な親切”の異常性。自ら考え判断できない日本人の危機
“人を疑うのは失礼だ”という心理が思考停止に陥らせる
日本人を思考停止に陥らせる要素はほかにも多々ある。 たとえば日本人に根付く“性善説”だ。 「近年、日本人の詐欺被害が増えています。日本人には性善説が根付いているので、“人を疑うのは失礼だ”といった思いに縛られやすい。“人を疑うな”というのは、一種の思考停止です。これでは簡単に騙されてしまいます。 一方、海外には“性悪説”が根付いている。学校教育で“人を疑え”と教える国もあり、日本とは真逆です。 また、日本人には『お任せにすれば悪いようにはしないだろう』という心理があります。寿司屋でお任せにする人は『その日一番美味しいものを提供してくれる』ことを信じて注文すると思うのですが、海外でお任せにしたら、どれだけ請求されるかわかりません(笑)。 これまで海外には“お任せ”という概念はなかった。そのため、自ら考え、判断する習慣がしっかり身についている。自分の身を守るために必要だからです」 もっとも最近は、お任せがそのまま「OMAKASE」として、海外の高級飲食店でブームになっていると聞く。この「OMAKASE」ブームは、自ら考え、判断する習慣が身についている海外の人にとっては一つの反動で、“たまには作り手にすべてを委ねて食を楽しみたい”という思いの表れなのかもしれない。 「現代はグローバル化によってさまざまな価値観が流入し、犯罪も多発しています。これまでのように“人を信じて任せる”姿勢では自分の身を守れない時代になっている。 もはやお任せの姿勢は通用しない、思考停止ではいられないのだということを日本人は認識し、社会全体で変えていく必要があるのではないでしょうか」 榎本博明 MP人間科学研究所代表、心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学助教授などを経て、現職。『<ほんとうの自分>のつくり方』(講談社現代新書)『おもてなしという残酷社会』『思考停止という病理』(ともに平凡社新書)『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)など著書多数。 取材・文:辻啓子
FRIDAYデジタル