フィンテックをめぐる投資、冬の時代から脱却か
復活はスローペース
しかしながら現実のフィンテック資金調達の傾向は、手放しで喜べる状態ではなさそうだ。 マッキンゼーの報告書によると、2022年のシードおよびプレシードの段階でフィンテックへの投資は前年比26%の伸びを見せている一方で、シリーズC以降の成長ステージにある企業で50%の減少。アーリーステージでの投資は、スタートアップがより長い時間をかけて不況をやり過ごし、満期までには損失を回収できるからだと見ている。 だがしかし、2023年第3四半期を振り返るS&P Global Market Intelligenceの報告書では、シードおよびアーリーステージでのフィンテック投資は大幅に減少しているとしている。アーリーステージのフィンテックに集まった投資は2022年と比較して64%減という統計。 ただ、2021年から22年にかけて驚異的な数のフィンテックが立ち上がったことからも、2023年に減少するのは仕方ないという見解もある。2022年には一旦回復したかのように見えた投資は23年に減少したと見るのが妥当だろう。
2024年は好機、AIとのコラボがカギ
では、2024年についての好材料は何か。 2022年後半からの減少傾向からの回復は2024年後半から可能性があると報じているのはアメリカのデジタルメディアThe Financial Brand。ベンチャーキャピタルがホールドしていた「ドライパウダー」が市場にリリースされフィンテックの資金源になる可能性があるからだ。 ただし、これまでのような異常な評価額や無制限の投資は現実的でないと警告もしている。今後投資家たちはフィンテックに堅調なビジネスプランを要求し、利益の見込みがないフィンテックを許容しない構えだとしている。投資家たちは、長期的に確実な利益をもたらすスタートアップを早期に見極め、見込みがなければ撤退も辞さない構えを見せるだろうと予測している。 QED Investorsの予想記事では、レイズもしくはイグジットしなかった場合に、53%のフィンテックが第3四半期までに清算するとし、注目のフィンテックをはじめとする複数のフィンテックの破産を目にすることになると予想している。 日本のフィンテック投資に関しては、2022年に過去5年で最低のレベルへと落ち込み、総額3億6,000万ドルにとどまっている。日本での投資のピークは48億ドルを記録した2018年とされ、それと2022年を比較すると実に92.5%もの下落だ。減少しているのは投資額だけでなく、取引数も同様で2022年の取引数は32件。前年の120から大幅に減少している状況だ。 ただし、モバイル決済やキャッシュレス決済が遅々として浸透しない日本にこそ、活路があると見る向きもある。 2023年に投資市場を席巻したAI。このまま2024年にも革新が進むとなると、フィンテックにも朗報となる可能性がある。 アメリカのIT企業EPAMシステムズノのブログによると、2024年はまさにフィンテックに取り組む年だとし、AIを活用したフィンテックのうち注目のスタートアップトップ5を紹介。 投資管理プラットフォームを提供するイタリアのAxyon AI、AIを活用しCRMと統合した財務分析システムのForwardlane、仮想通貨版のBloombergと称するToken Metrics、シンガポールが拠点の、生命保険が主体の顧客サービスを提供するAiDA、金融サービス企業に特化したチャットボットを作成するActive.aiと、5社はそれぞれ大企業からの出資やEUの補助金、ベンチャー投資やクラウドファンディングから資金を調達している。 また同時に、デジタルバンキング、ロボアドバイザー、レグテック、ファイナンスの4分野では、新スタートアップに参入の余地があると言及。前述の関連投資家の予測同様、従来型の銀行業務のデジタル化、チャットボットによるカスタマーサービスの向上、レグテックによる規制への対応でエラーや書類業務の削減、個人の支出や銀行口座、資産管理を任せられる金融サービスへの革新に期待が寄せられている。 大幅な復活は見込めないとしても、堅実な回帰が見込めそうなフィンテックへの投資。AIとの統合や取り扱う機密情報の安全性確保といった課題を克服し、収益の見込めない企業の淘汰といった痛みを伴いながら、冬の時期だけは乗り越えていきそうな2024年だ。
文:伊勢本ゆかり/ 編集:岡徳之(Livit)