仏紙「トヨタはフランスでも車作りができると証明した。だが深刻な懸念もある」
フランス北部にあるトヨタのオネン工場では2024年、コンパクトカー「ヤリス」の生産台数が500万台に到達した。 【画像】トヨタのヤリスを生産するフランスのオネン工場 コストを理由にフランス国内での自動車生産を避けるメーカーが多いなか、トヨタは現地生産を維持し、むしろ生産量を増加させた。 仏紙「ル・モンド」は「奇跡の日本メソッドだ」と評価する一方、トヨタがEVシフトを乗り切れるのか懸念は拭えないとも報じている。
フランスの自動車産業に「日本モデル」を示した
味噌を使ったブルターニュ産オマールの一皿、ワサビ風味のマカロン、ノルマンディー産シタビラメの天ぷら。フランスの美食界は日本の影響を受けたもので溢れている。 だが、日本がフランスに与える影響は食の分野に限ったことではない。2001年にフランス北部のヴァランシエンヌ近郊にトヨタの工場が建てられて以来、日本の影響は自動車業界にも及んでいる。 2024年11月26日、オネン工場で500万台目のヤリスが製造され、青、白、赤の紙吹雪で盛大に祝われた。さらにトヨタは同日、5000人の従業員のうち、不安定な雇用にあった600人を無期雇用契約に転換すると発表したのだった。 産業担当大臣のマルク・フェラッチはこの成功を「活気の出る話だ」と称えた。そしてフランス国内の自動車産業において、メーカーと下請け業者のあいだに対等な関係が築かれていない点が問題視されるなか、トヨタが実践するパートナーシップは「互いを尊重しあう関係」だと称賛した。
EVシフトへの明言は避け続けるが…
フェラッチはトヨタの経営陣に対して「フランスでも車作りが可能だということを示してくれた」とも語っている。この発言は、フランス国外に製造拠点を移したルノー、シトロエン、プジョーを暗に批判しているともとれる。 とはいえ、彼の発言は的外れというわけではない。フランスを代表する先の自動車メーカーは、国内での自動車製造はコストが見合わないと結論づけたからだ。ルノーの「クリオ」のほとんどはトルコで生産されており、プジョーの「208」はスロバキアやモロッコで組み立てられている。 そんななか、オネン工場は生産を維持し、さらに生産拡大にも成功した。トヨタの製造ノウハウ、そしてハイブリッドSUVにおける高い専門性が成功の要因として挙げられる。さらに同工場はヨーロッパの中心に位置するため、輸出が容易になるという利点もある。 しかし、この成功の裏でEVシフトという問題が棚上げされていることも事実だ。ルノーやプジョーが苦労しつつもEVへと舵を切っている一方で、トヨタは収益源をハイブリッド車に頼っている。完全なEV化はいつなのか、どの工場で生産するつもりなのか、トヨタは明言を避けたままである。 オネン工場はいま「フグ」を味わっている。大変に美味だが、適切に調理をしなければ命取りになるかもしれない。
Isabelle Chaperon