日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2024 音楽劇『あらしのよるに』【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】
公演もチラシも、シンプルが強い
中井 これまでの公演のチラシを並べてみると、基本のコンセプトは同じですが、再演のたびにまわりのイラストが変化していくのが面白いですね。 立山 ふたりを取り囲むイラストが1回目は自然、2回目はふたりが出会った小屋にしようというところまではサクッと決まりました。最初は再演の予定はなかったので、2回目の撮影時には以前の衣装がもうなかったんです。だからキャストに合わせて衣装の色味も変えて新たに作っていただいて。 大澤 3回目となる今回は、原作終盤で2匹が並んで月を見上げているシーンを選びました。 中井 こうしてチラシを並べてみると、それこそ絵本を見ているようですよね。長く再演を繰り返す公演であれば、1冊の絵本のように展開していくのは面白いですね。今回はガブもメイも新キャストになりますが、稽古のようすはいかがですか? 立山 稽古は始まったばかりですが、いまのところふたりの声の相性がすごくいいことに感動しています。過去2回は(ガブ役を務めていた)渡部豪太さんがリードして、メイ役の俳優さんがついていく、という関係性でしたが、今回は白石隼也さんの声がやさしくて、南野巴那さんは明るい声。このふたりで新しい『あらしのよるに』が見せられるんじゃないかと思っています。これは初演からですが、場面自体はすごく多いけれど、美術はそれほど多くないんです。やはりシンプルな方が強いという思いがあるから。 中井 楽しみです。チラシも、公演も、シンプルな強さを訴えている。こうして見るとチラシに載っているコピーも最低限ですよね。 立山 そこもシンプルに、ですね。『あらしのよるに』は名作ですし、さまざまなメディア展開がされているからこそ、サブタイトルやコピーで縛るのではなく、まっさらな気持ちで観に来ていただいて、舞台ならではのダイナミックさ、空気感をそのまま受け取っていただけたらという思いで。 中井 やっぱり驚いてほしいですよね。こんなにたくさんの人が出てくるんだとか、こんなにジャンプするんだとか。動くことから生まれてくる非常に根源的な感動が、舞台にはあるから。 立山 演劇ってたいへんなこともたくさんありますけど、やはり生の身体がそこにあるのが舞台の醍醐味だしアドバンテージだ、という気がするんです。だから『あらしのよるに』でもそこを見せたいですね。子どもの時に面白い作品を観たら、劇場に通うようになるかもしれない。お子さんに「演劇は自分の人生に関係ない」と思われてしまったら、一度にたくさんの選択肢が削られる。子ども向けだからこそ、尽力して本当にいいものを作らないとと思います。 大澤 日生劇場としても、クオリティの高いものを、と思っています。 中井 このクオリティの作品が廉価で観られるのは本当にすごい取り組みだと思います。最後に、立山さんにとって演劇チラシの意義はどこにあると思われますか? 立山 観る方が一番最初に出会うのはチラシですよね。そこにどれだけ作り手の思いが鋭利に入っているか。「このくらいでしょう」という温度感でチラシを作っていては、熱量で他の公演に負けてしまうと思います。この作品に作り手がどのくらい賭けているかは、一般の方にもチラシから感覚的に伝わると思うんです。その視線に私たちは常に晒されてる。そうなると、なるべくいらないものを全部削って、大切なことだけ伝えるものにしたいなと思いますね。 中井 演劇チラシは日本独特の文化ながら、予算との兼ね合いもあって、だんだん減っていますが。 立山 予算はチラシに限らず何にもついてまわりますが、関わってくれるスタッフ全員の知恵を総動員して、いいものを作りたいと思います。このチラシも、大澤さんが調整してくれて、デザイナーの加藤さん、柴田さん、衣装の生田さん、みんながいいものを作ろうと妥協せず案を出し、実現してくれる。戦ってくれる。それは実際の舞台を作るときも同じです。予算という現実を受け止めながら、みんなが納得する結果を出すための知恵を出し合うのが大事かなと思います。 取材・文:釣木文恵 <公演情報> 日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2024 音楽劇『あらしのよるに』 日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2024 音楽劇『あらしのよるに』 原作:きむらゆういち 脚本・演出:立山ひろみ 音楽:鈴木光介(時々自動) 振付:山田うん 出演:白石隼也 / 南野巴那 / 阿南健治 / 平田敦子 / 他 日程:2024年8月24日(土)・25日(日) 会場:東京・日生劇場 主催・企画・制作:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場] <プロフィール> 立山ひろみ(たてやま・ひろみ) 1979年、宮崎県出身。劇作家・演出家。パフォーマンス演劇ユニット「ニグリノーダ」主宰。宮崎県立芸術劇場演劇ディレクター。大学卒業後、劇団黒テントに所属し演出家デビュー。同劇団を退団後「ニグリノーダ」発足。主な演出作品に、宮崎県立芸術劇場プロデュース公演「新かぼちゃといもがら物語 #7『神舞の庭』」、オペラシアターこんにゃく座オペラ『ルドルフとイッパイアッテナ』、デフ・パペットシアター・ひとみ『河の童 かわのわっぱ 』など。 中井美穂(なかい・みほ) 1965年、東京都出身(ロサンゼルス生まれ)。日大芸術学部卒業後、1987~1995年、フジテレビのアナウンサーとして活躍。1997年から2022年まで「世界陸上」(TBS)のメインキャスターを務めたほか、「鶴瓶のスジナシ」(TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MX)、「華麗なる宝塚歌劇の世界」(時代劇専門チャンネル)にレギュラー出演。舞台への造詣が深く、2013年より2023年度まで読売演劇大賞選考委員を務めた。