日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2024 音楽劇『あらしのよるに』【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】
全体チラシだけでは出会えない人に出会いたい
中井 チラシのお話を聞かせてください。フェスティヴァルの4公演全てをまとめて紹介するチラシがありますね。各公演、それとは別に独立したチラシを作っているわけですか? 大澤 これまでは、この全体チラシのビジュアルをそのまま単独のチラシとした演目もあります。ですが、『あらしのよるに』は初演のときから、フェスティヴァル全体のものとは違うビジュアルのチラシを作ろうと。 立山 全体チラシは、掲載できる情報が限られていて、今年は少し変わりましたが、これまでは全ての演目が画一的に並んでいる印象でした。せっかく『あらしのよるに』をやるのに、それだけでは情報が届けたい人に届かないんじゃないかと。チラシはいちばん最初にお客さんに出会う窓のような存在だと思うので、自分たちはこういうことをやるよというメッセージとして、全体チラシからは独立した単独チラシを作りたいとお願いしました。 大澤 これまでの全体チラシでは、同じテイストで表紙からすべての公演を統一していました。ですが同じテイストでいろいろなジャンルの公演を並べると、演劇はどうしても目をひきづらい部分がありました。というのも、バレエやクラシックはお子さまが習いごとで親しんでいることも多く、「連れて行ってみよう」と思われる保護者の方もいる一方、演劇は親御さんが普段から演劇を観る習慣がないことには、なかなか関心を持っていただきにくいジャンルです。実際、ファミリーフェスティヴァルの中でも演劇はその点での課題が大きい。ですから、クオリティの高い演劇公演である、ということを単独のチラシで、さらに訴えかけたいと。全体チラシは1都3県の幼稚園や小学校に配布するものなので、違うルートで興味のある方に出会いたいという意図もありました。 中井 愛らしさの中にも大人っぽさがあるチラシで、素敵ですよね。 立山 幅広くこの公演にアクセスしてもらいたくて、まずは予算やその他の制約を考えずに、シンプルかつキャッチーなものを作りたいと思いました。最初にデザイナーの加藤秀幸さんのところに相談に行ったとき、あらかじめメモしていたイメージ図を見て頂きました。「ガブとメイのふたりのお芝居が中心にあって、他の出演者はヤギやオオカミのほか、物語の大切な要素である自然や天候を演じるので、そういう部分も(イラストで)表現してほしい」と。そしたら加藤さんも「じゃあこうしよう」とその場でラフを描いてくれて。 中井 ではかなりスムーズに。 立山 そうですね。衣装プランももちろんまだできていない中、公演の衣裳デザインの太田雅公さんもチラシの撮影打ち合わせに同席してくれたんです。キャストに似合う色も考えてアイデアを出していただき、太田さんのアシスタントである生田志織さんにデザイン・製作をお願いしました。 大澤 3回目となる今回はアンサンブルの皆さんのマフラーも作っていただいて、裏面のキャスト写真も揃えて撮り、カラーで掲載しました。 中井 線画が贅沢にシルバーでプリントされているから、手にとって角度を変えることで風合いが変化するのがいいですよね。 立山 このハプニング性もいいなと思います。お子さんたちに想像力を渡せるようなしかけを公演でも意識しているのですが、チラシでもそんなテイストが表現できたらと。 中井 裏面も美しいです。表のモチーフが散りばめられていて、情報量は多いのに読みやすい。 立山 これはもう、デザイナーである加藤さんのプロの技です。 大澤 表面の情報が、過去に当劇場で作成してきたチラシに比べて、非常に少ないんです。やはり最初は内部からも「もっと情報を入れるべきでは?」といった声もありましたが、デザインを見て納得してもらえました。 立山 大澤さんが頑張ってくださってありがたかったです。私は表にはあまり要素がないほうがワクワクするので。 大澤 絵本がもともと少ない文章でお子さんの想像力を喚起するものだと思うので、入れなくてよかったと思っています。結果、お客様からも、カンパニーからも好評でした。 中井 表が魅力的だったら絶対に裏面も見ますから。デザインの勝利だと思います。