河合優実「ぼんやりしていることにコンプレックスを感じていた」夢や目標への考え方:インタビュー
女優の河合優実が、映画『ナミビアの砂漠』(9月6日公開)に出演。夢も目標もなく自分の存在意義を探すために恋愛をする女性、カナを演じる。本作は山中瑶子監督初の長編映画で、現代日本の若者たちの恋愛や人生を鋭い視点で描き、2024年・第77回カンヌ国際映画祭の監督週間に出品され国際映画批評家連盟賞を受賞した。主演を務める河合はドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS)や映画『あんのこと』での好演が評価され、注目されている。また、劇場アニメ『ルックバック』では声優にも挑戦し、その評価も高い。インタビューでは、人生にもがくカナを河合はどのように捉えたのか、夢や目標がないという人たちも多く散見される中、河合はどう感じているのか、話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】 ■山中監督は特別な存在 ――山中監督とは昔から親交があったとのことですが、本作のオファーが来たときの心境はいかがでした? 山中監督が手がけた映画『あみこ』(2018年)のときに、監督にお会いしたことがあり、「いつか監督の作品に出演したいです」とお伝えしました。当時の私はまだ高校生で、役者を職業としていなかったので、そこから6年ほどお会いできていませんでした。山中監督の連絡先は知らないので、監督が新しく映画を作るという情報を聞いて、私の方からも事務所を通してアプローチしてもらいました。なので、ストレートにオファーをもらうのとはちょっと違う経緯があったのですが、山中監督もぜひと思ってくれていたみたいで嬉しかったです。 ――念願が叶ったんですね。 企画の変遷とかいろいろあったのですが、実現するとなった時は本当に嬉しかったです。監督と一緒にお仕事ができることになるとは思っていなかったので、当時の自分にこのことを話したら、きっとびっくりすると思います。『あみこ』は自分にとって、とても思い入れの深い映画体験で、山中監督は特別な存在でした。他の監督とご一緒する時とは違う感覚があります。 ――ところで企画の変遷とは? 最初は今とは違う原作がある作品を撮る予定でした。私はその主演ということだったのですが、オリジナルの脚本で書き直そうとなり、それが『ナミビアの砂漠』になりました。あてがきの形とはいえ監督は私のような人物を書こうとしたわけではないと思うのですが、監督に自分が考えていること、家族のこと、身の回りのことを話していく中で、ストーリーのヒントになることもあったとおっしゃっていました。 ――山中監督の作品のどのようなところが魅力的に映りましたか。 改めて振り返ってみると、セリフや音楽、描写などいろいろなことが頭の中に残っています。当時は特に予備知識もなく『あみこ』を選んで、自分の評価軸もない状態で観に行ったのですが、ビビッときたのは、山中さんの感性がすごく好きだったからなんだろうなと思います。特に『あみこ』で印象に残っているのはセリフです。他の作品では見たことも聞いたこともないものが詰まっていて、すごくビックリしました。 ――具体的にどのようなセリフが心に響いたのでしょうか。 たとえばダンスシーンなんですけど、踊っているところに突然あみこが入ってきて、「日本人はな、勝手に体が動きだしたりしねーんだよ」というセリフが鮮烈でした。 ――『ナミビアの砂漠』で印象的なセリフは? たくさんあります。カナは自分がどんな人なのかあまりわかっていないと思います。客観的にも、「カナはこういう人なのかな?」と思っていると、それを裏切るような言動があり、心を揺さぶられます。その中でカナが精神科医とオンラインで診療するシーン、「自分のこと、分かりたいんで」というセリフがあるのですが、とてもぐっときました。 また、カナの2番目の彼氏、ハヤシ(演・金子大地)の家族が集まるバーベキューに参加するシーンがあります。カナは「手土産を持っていかないと」と話しますが、「持っていかなくていいよ」と言うハヤシに対して「非常識な人だと思われたくない」と言います。そういうやりとりから自分でもわかっていない自意識、社会性や倫理観のバランスみたいなものが、ふとした瞬間、言葉に出てくるのがすごく面白いなと思いました。 ■現場で自分から生まれたものが多かった ――河合さんの表情も印象的でしたが、演じるにあたり意識されていたことはありましたか? 身体や表情も含めて、子どもや動物などあまりルールにとらわれていない、そんな奔放さがあった方がいいなと思いました。カナは鬱状態になったり、精神的に不安定な部分もあるのですが、静かに落ちていってしまうイメージよりも、目の前に起きていることは大変だけど、自由に走ったり歩いたり、暴れているようなイメージの方が合うし、面白いと思っていました。 ――監督から「こういった表情で」などリクエストもあったのでしょうか。それとも自分から発信されたものだったのでしょうか。 表情に対しては具体的なリクエストはあまりなかったと思います。自分から生まれたものを受け入れてくれたり調整してくれたりしました。本作の予告編でも観られる目を見開いているシーンも、リクエストされたことではなくて、現場でやってみたところ、すごくみんなが面白がってくれました。セリフは脚本通りなんですけど、それ以外の体の表現などに関しては、任せていただいていた感覚があります。 ――体の動きといえば、ハヤシとケンカをするシーンは大変だったのでは? 大変でした。そのシーンはリハーサルからアクション部さんに入っていただいて、全てアクションをつけて行いました。体も大変ですけど、一番チャレンジングだったのは観ていて怖いとか引いてしまう感じの暴力よりも、どこか観ている側がクスッと笑えるような、ちょっとやりすぎていて、「何してるんだろうこの人たち(笑)」と思えるようなアクションをゴール地点にしていたことです。どうすればそういうケンカになるんだろうと、塩梅(あんばい)がけっこう難しかったです。 ――カナのフラストレーションが変化する瞬間や、逆に生き生きする瞬間がありますが、それらが河合さんの精神状態に及ぼすことは? どういうことをやろうか、私は割と冷静にプランを立ててやるタイプなので、役に影響されすぎることはあまりないんです。とにかく楽しく、みんながより良いものを作ろうと、毎日笑って現場に来ていることが本当に幸せでした。次はどんな面白いシーンを撮ろうか、みたいな感じで常にチーム全体がものづくりに対してワクワクしていました。 ――すごく風通しの良い現場だったんですね。 いろいろな部署の方が自由に提案をして、柔軟に現場に取り入れていたので良かったです。若いスタッフさんも多く、とても自由度の高い現場でした。 ――スタッフさんの個人的な体験も物語に反映されているそうですね。 いっぱいあるそうです(笑)。そのスタッフさんに「実際どうだったんですか?」と当時の詳細を聞いたりしていました。ホンダ(演・寛一郎)が崩れ落ちるシーンでは、寛一郎さんもそのスタッフさんに「どういう感じで崩れ落ちたんですか?」と聞いていました。 ■自分の心が反応するものは絶対どこかにある ――さて、河合さんは山中監督の作品を観て、女優への道が前進したように思います。近年、夢も目標もないという人が多く見られるイメージがありますが、夢や希望を見つけるために、どのように毎日を過ごすのがよいと思いますか。 ありがたいことに、私は夢や目標が10代のうちに見つかりました。とはいえそういったものがない時期もあったんです。周りの人は将来の夢が定まっているのに、自分はぼんやりしていることにコンプレックスを感じていたので、私もその気持ちはわかります。夢や目標など向かう場所がある方が過ごしやすいと思います。やりたいことが見つからないのは、とてもしんどいことだと思うのですが、自分の心が反応するものは絶対誰しもどこかにあると思います。 ――まだ見つかっていないだけだと。 はい。そういうアンテナ、センサーを張り巡らしながら過ごしていれば、いつか見つかると思っています。でも、何か探そうと意識しすぎるといろいろ焦ってしまうので、アンテナを張った状態で日々生活を送っていれば、どこかで引っ掛かるんじゃないかなと思います。 ――最後に『ナミビアの砂漠』を観た方に、どのようなことが伝わったら嬉しいですか。 とにかく面白いものを自由に作ってみようという現場でした。不確定要素が多くて、道筋をしっかり決めてスタートしたわけではなかったんです。その中で私がひとつ思うことは自分が高校生の時に『あみこ』を観て、「こんなにも自由に映画を作っている人がいるんだ」と感じた気持ちを、『ナミビアの砂漠』で味わってくれる人がいたらいいなと思います。映画を観た後に「なんだこれは」と得体の知れないエネルギーをもらって元気になって、ワクワクして帰路についてもらえたら嬉しいです。 ――河合さんたちの演技を観て、自分もお芝居をやってみたいと思ってもらえたら、よりいいですね。 そんな気持ちになってもらえたらすごく嬉しいです。 (おわり) ヘアメイク:上川 タカエ(mod’shair) スタイリスト:杉本学子