うつ症状に作用する漢方薬の科学的メカニズム マウスを使った実験で実証されつつある
2020年時点で、医薬品として承認された漢方薬は294処方(一般用漢方製剤)、そのうち、医療保険の適用のあるもの(医療用漢方製剤)が148処方あります。本稿は『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム 』より一部抜粋・再構成のうえ、漢方薬・香蘇散(こうそさん)についてご紹介します。 【この記事の他の画像を見る】 ■加藤清正が戦場で使用したエピソード 香蘇散は、風邪の初期症状の際、特に胃腸が弱い人によく用いられます。動悸や発疹などの副作用があるマオウを含まないため、高齢者や妊娠中の女性にも使われます。
歴史をひもとくと、中国の南宋時代にさまざまな疫病の治療に処方されたとの記述が残されていて、日本では戦国時代から多用されています。なかでも有名なのが、加藤清正が豊臣秀吉に朝鮮出兵を命じられたときのエピソードです。 加藤の軍勢が敵に囲まれて籠城したとき、多くの兵が気鬱の病(うつ・不安症状)に悩まされるなか、軍の医師によって香蘇散が多く処方されたというのです。そして現代でも香蘇散は、風邪の症状だけでなく、うつ症状やストレス症状を緩和することが数多く確認されています。
なぜ、風邪に使われる漢方薬が、うつ症状を緩和するのでしょうか。北里大学では、マウスを使ってメカニズムを調べる研究が行われています。その実験を見てみましょう。 実験では、人為的にうつ状態にしたマウスに対し、香蘇散を体重100グラムあたり0.1グラム、9日間投与しました。その結果、香蘇散を投与したマウスでは、水を与えたマウスより40%以上もうつ症状による行動の低下が改善されたのです。 ■うつ症状に関わるHPA軸に注目
そこで、研究チームが注目したのは、うつ症状に関わるHPA軸と呼ばれるメカニズムです。HPA軸はストレス反応を制御するメカニズムで、「視床下部―下垂体―副腎皮質系」を軸として、副腎皮質ホルモン(ストレスホルモン)を分泌します。 通常、副腎皮質から分泌されたストレスホルモンの量が増えると、視床下部や下垂体の受容体で感知され、視床下部からのホルモン(CRH)や下垂体からのホルモン(ATCH)の量が低下し、ストレスホルモンの過剰な分泌を抑制するネガティブフィードバックがはたらきます。