うつ症状に作用する漢方薬の科学的メカニズム マウスを使った実験で実証されつつある
ところが、過度なストレスなどが続くと、視床下部のストレスホルモン受容体の数が減るなどして、この仕組みが破綻してしまいます。すると、HPA軸が過剰に活性化し、大量のストレスホルモンが分泌され続けてしまい、うつ症状を引き起こすと考えられています(下図参照)。 ■ストレスホルモンの分泌が正常化 研究チームは、香蘇散を投与してうつ症状が回復したマウスを調べたところ、視床下部にあるストレスホルモンの受容体の数が回復し、それぞれのストレスホルモンの分泌に関わる遺伝子の発現も低下していました。
つまり、香蘇散の投与によってHPA軸の活性化が鎮まり、ストレスホルモンの分泌が正常化したことで、うつ症状が改善されたと考えられるのです。 また、こうした作用をもたらす薬理成分についても、香蘇散の生薬のうち、ソヨウのペリルアルデヒドやロスマリン酸、また、チンピのヘスペリジンやノビレチンなどが関わっている可能性があります。 このほかにも、香蘇散には、うつ症状と関係が深い脳の記憶を司る海馬の神経への作用などが確認されており、古来から伝えられてきたうつ症状に対するメカニズムが実証されつつあるのです。
山本 高穂/大野 智