杉咲花×若葉竜也『アンメット』10話。記憶が消えても残るもの
三瓶と大迫の雪解け、星前の思い
ミヤビの記憶障害の原因が、ノーマンズランドと呼ばれる不可侵の場所に存在する、0.5ミリ以下のとても細い血管の中にあり、手術はほとんど不可能であることがわかって以来、当然のように超極細の血管を扱う練習を始めた三瓶。しかし、ミヤビは、 「成功率の低い手術に賭けるよりも、最後まで医者として患者さんを診たい」 と手術をしない決意を三瓶に伝える。ミヤビの日記には 「もしも失敗したら、三瓶先生は自分を責めてしまうから」「三瓶先生には笑っていてほしい」 と書かれている。ミヤビは自分のこと以上に、三瓶を思って手術をしない決意を固めているようだ。 10話では、ミヤビの手術が難しいとわかっていても諦めきれない三瓶、大迫(井浦新)、星前(千葉雄大)、綾野(岡山天音)の四者会談シーンが圧巻だった。そこで、事故直後から大迫も手術の練習を続けていたことが明らかになる。 「やっぱりあなたは医者でしたね」「やっぱり君は生意気だ」 かつては反対の方向を向いていたかに見えた三瓶と大迫。けれど、ミヤビに対する思いと、そのための努力の方向は全く同じだ。もちろん、二人だけではない。院長も津幡も、星前も綾野も、ミヤビを救いたいという気持ちはひとつだ。 ミヤビと星前(千葉雄大)のシーンも、9話のミヤビと三瓶のシーンに負けず劣らずいい時間だった。ところどころ冗談を交え、軽口の延長のような感じで、ミヤビの状況と手術について話す。終始笑顔でいながらも、目に涙を溜めてミヤビの考えを聞く星前。三瓶とミヤビの関係とは違うけれど、2人の間にはしっかりと信頼関係が結ばれていることが伝わってきた。軽そうに見えて、いつも真剣な星前を、千葉雄大は見事に好演し続けている。
キャストとスタッフの総合力があらゆるシーンに
回を重ねてきて、ミヤビと三瓶のみならず、あらゆるシーンがすごみを増しているように思う。 たとえば冒頭で柏木の治療方針についてミヤビ、三瓶、成増が話す場面のテンポ感。柏木に成増、森(山谷花純)、新井らが似顔絵を描いてもらおうとする会話。成増とミヤビ、三瓶、綾野が、柏木に描いてもらった似顔絵を見せ合う空気感。丘陵セントラル病院の総合力を見せつけられているようだ。さりげないシーンであっても、キャストとスタッフの思いが通い合い、タイミングが合って、この作品を作り上げていることが伝わってくる。 いよいよ最終回。『アンメット』はどんなふうにその幕を閉じるのだろう。 ●番組情報 『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ) 脚本:篠﨑絵里子 原作:子鹿ゆずる(作)大槻閑人(作画)『アンメットーある脳外科医の日記ー』(講談社『モーニング』連載) 演出:Yuki Saito、本橋圭太 出演:杉咲花、若葉竜也、岡山天音、生田絵梨花 他 プロデューサー:米田孝、本郷達也 主題歌:あいみょん『会いに行くのに』 FOD、Netflixにて全話配信中(有料) ●釣木文恵 つるき・ふみえ/ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。 ●オカヤイヅミ 漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。この2作品で第26回手塚治虫文化賞を受賞。趣味は自炊。
GINZA