日本人の有休消化率62.1%で「過去最高」では喜べない…「120%の台湾」や「111%の香港」との決定的な違い
なぜ日本人の有休取得率は世界最悪なのか。ビジネスコンサルタントの新田龍さんは「『有休なんてとらせてたら仕事が回らない』なんていう会社は組織上、致命的な問題があり魅力がない。労働者から選ばれる会社になるためには、誰が休んでも仕事が回る仕組みを今から整える必要がある」という――。(後編/全2回) 【図表】[世界]2022年の世界16地域における有給休暇の取得状況比較 (前編から続く) ■有休取得率が過去最高を記録したが… 「6月は祝日が1日もない」と嘆いているビジネスパーソンは多いだろう。次の祝日は7月15日まで待たなくてはならない。しかし、こういう時こそ活用すべきなのが、有給休暇だ。 わが国のすべての企業においては、2019年4月から有給休暇の取得が義務化されている。使用者は、条件を満たした従業員には年5日の有給休暇を取得させなければならず、違反した際には罰則もある。つまり現在は、有休を5日取れない会社は「違法」となっている。 その効果は着実に出ているようだ。厚生労働省による最新版「令和5年就労条件総合調査」によると、2022年の1年間に企業が付与した有給休暇の、労働者1人あたり平均日数は17.6日。このうち実際に労働者が取得した日数は10.9日で、取得率は「62.1%」となった。 実はこの数字、調査を開始した昭和59年(1984年)以降、過去最高を記録しているのだ。 さすがに有休取得率が60%を超えたからには、海外諸国との比較でもそんなに低い位置には留まっていないだろう……と思われた読者もおられるかもしれない。しかし残念ながら、わが国では過去最高の有休取得率でも、国際的には依然として「ワースト2位」。まだまだ日本人の有休取得率は低いままなのだ。
■自分も同僚も気兼ねなく休める環境が望ましい 記事前編で紹介したように、日本人が有休取得をためらう理由は「周囲に迷惑がかかると感じる」「後で多忙になる」「職場の雰囲気で取得しづらい」というものだ。有休の前後に残業をして仕事を片付けたり、職場の同僚に休暇中のフォローをお願いしたりする人も少なくないだろう。 そもそも「有休をとるために●●しなければならない」という状況自体がおかしいのであって、組織内の誰に遠慮することもなく、社内システムで希望日に「有休取得」と入力すれば手続が完了することが望ましい。ただ残念ながら、多くの企業ではそのようになっていない以上、基本的なアクションとして ---------- (1)各組織の繁忙時期を避けて、有休取得日を検討・調整する (2)自分の不在が組織の業務遂行上のボトルネックとならないよう、有休取得予定日に合わせて、重要業務を優先的に処理しておき、同僚への業務負担のシワ寄せが極力発生しないよう準備しておく (3)不在時に備えて同僚に協力を要請して業務引継ぎを済ませ、トラブル発生時の対応法など、バックアップ体制も整えておく (4)上司に有休取得を申請し、上記(1)~(3)にまつわる準備態勢を説明し、不在時の業務対応に関して確認・合意を得る ---------- といった配慮は必要となるだろう。 合わせて、あなた自身が気兼ねなく有休取得できるようにするためにも、同僚が有休取得する際には積極的に引継ぎに協力するなど、普段からの良好な関係性構築・維持もおこなえていればなお望ましい。 ■「有休がとれない組織」の問題点 ここまで読んでいただいただけでもお分かりのとおり、わが国の組織では、本来われわれ一人ひとりに与えられている権利を単純に行使するだけでも、面倒な下準備と根回し、そして配慮が求められる。 言い換えれば、わが国の一般的な組織は、普段から意図せずそのような気苦労を従業員全員にかけているということに他ならない。逆に言えば、「有休を気兼ねなく自由に取得できる」という本来当たり前の事象を実現するだけでも、既存従業員にとっては福利厚生に匹敵するメリットとなるうえ、求職者にとっても会社選択の決め手になり得るくらいの重要なポイントであるとも言えるのだ。 「この人手不足で忙しい時期に、有休なんてとらせてたら仕事が回らないよ‼」と愚痴る経営者や管理職の皆さま方は、ぜひこの機に自組織を見直し、じっくりお考えいただきたい。もしかしたら、「人手不足で忙しいから有休を取らせられない」のではなく、「有休ひとつも取らせられないような組織だからこそ常に忙しく、そんな組織だからこそ求職者から忌避されて、人手不足に陥っている」のかもしれないのだから。