人間の尊厳はどこに消えた? 廊下に押し込められ避妊手術を待つ女性たち
インドの首都デリーから130キロほど南西にある田舎町メヘンドラガー。平屋建ての公立病院に足を踏み入れると、30人ほどの若い女性たちが、身を寄せ合うように廊下にしゃがみこんでいた。手術室の前で、避妊手術の順番を待っているのだ。近郊の農村出身で、すでに1人か2人の子供をもうけた女性たちだ。 避妊手術を受けることで、女性たちには1400ルピー(およそ2500円)、彼女たちに避妊手術を説得し、同行してきたヘルス・ワーカーには1000ルピーが政府から支給される。農村の平均月収は5000から7000ルピーほどだから、少なくはない額だ。人口増加に歯止めをかけたい政府による政策の一環だが、こんな「報酬」を与えない限り、教育を受けていない農村部の女性たちがわざわざ避妊手術など受けにこないのだろう。
この避妊手術、問題も多い。インドの病院は、田舎部ほど設備も乏しく、衛生状態も悪くなる。特にこのような集団手術では器具を使いまわしたり、適切な殺菌処置を怠ったりして死者が出ることも少なくない。2014年におこったチャッティースガル州での集団手術では、15人が死亡したことで大事件になった。この時、1人の医者が一時間に80人以上の女性に手術を施していたという。 一か所に集められての集団去勢手術とは、まるで家畜扱いだ。廊下に押し込められ手術を待つ女性たちは、人間としての尊厳を奪われた存在だった。 (2016年2月撮影) ※この記事はTHE PAGEの写真家・高橋邦典氏による連載「フォトジャーナル<人口増加の脅威>」の一部を抜粋したものです。