死体解体業の男を描き話題沸騰の映画『辰巳』「人に命令なんてできない」という自主制作にこだわる温和な監督はなぜ命令と理不尽と暴力しかない映画を撮ったのか
裏稼業で生計を立てる孤独な男を描いた映画『辰巳』を、完全自主制作で完成させた小路紘史監督。2016年のデビュー作『ケンとカズ』の公開から8年。ジャパニーズノワール映画の新しい扉を開いた本作で、小路監督が描きたかったものとは。 【画像】あどけなさの残る女の子が理不尽な暴力に屈して…
――公開中の映画『辰巳』は、前作『ケンとカズ』(2016年)から8年ぶりの新作です。 小路紘史(以下同) 長く休んでいたとかではないんですけどね。じっくりロケハンもオーディションもした上で撮影して、2~3年かけて編集して、追加撮影もして、そしたら8年経っちゃいました。 ――商業作品ではあり得ない時間と労力のかけ方ですよね。 (普通の商業映画では)あり得ないんでしょうね。超売れっ子の俳優さんと仕事したことないので、もはやわからないです。8年かけていたら怒られますよね(笑)。 ――とはいえ、テレビ東京のドラマなどでも監督を務めていますよね。 そこは自分の映画とは別で、完全に割り切っています。映画を作るためにはお金も稼がないといけないし、自分の経験にもなるし。ベテランの助監督に怒られながら、なんとかやっています。 ――ドラマだと追加撮影もできないでしょうし。 でもハリウッド映画では、追加撮影は当たり前なんですよ。そのために、いったん撮影が終わっても、セットをそのまま残していたり。すごいお金はかかるんですけど、追加撮影ありきで作られています。日本の監督だと、誰ならそういう時間とお金のかけ方できるんですかね。 ――かなりの大御所にならないと、難しいでしょうね。 大御所になったら、人に命令しないといけないですよね。それはできないな。 ――そんな性格なのに、なぜ暴力まみれの映画を作っているんですか? 命令と理不尽と暴力しかない(笑)。完全に趣味です。ジャンル映画として、ノワール作品が好きなので。
キャスティング権を完全に握りたかった
――小路監督は、師匠にあたるような人はいるのでしょうか。 いないんですよ。映画の専門学校に行って、仲間たちと自主制作をしながら、そのまま監督になってしまったので。専門学校の同級生が『ケンとカズ』でカズを演じた、俳優の毎熊克哉なんです。彼はカメラマンコースに通っていて、照明を手伝ってもらったりしてました。 ――経験として、助監督をやってみたかったとかは? 絶対やりたくないですね。やっていたら、映画作りもやめていたと思いますよ。とにかく命令するのもされるのもイヤなんです。今の僕の映画の作り方も、縦社会ではなく、常にお願いベース。「やっていただけますでしょうか……」って。監督の名前がついた「〇〇組」という、映画ならではのファリミリー感も一切経験ないです。そういう体制を持っているほうが、長続きはすると思うんですけどね。 ――世にある映画たちが先生、という感じですか。 そうですね。誰にも教わらず、ひたすら映画を観て学びました。僕の作品はオマージュで成り立っているところも大きいので。 ――自主制作にこだわる、最も重要なポイントは? 役者ですね。自分のやりたい映画を追求するために、キャスティングもすべて自分が考えたいんです。最初から役者が決まっているのはもちろんイヤですし、そもそも役者ありきで「この人で撮りたい」と思えるような役者に残念ながらまだ出会ったことがなくて。でもそれは役者のほうも同じで、今のキャスティングの進め方に不満を持っている人はたくさんいると思います。 ――オーディションにかなり時間をかけるとのことですが、独自のやり方があるのでしょうか。 オーディションのやり方自体は普通です。役に合わせて、かるくセリフを言ってもらったり、動いてもらったりとか。その感触によって、別の役でまたオーディションを受けてもらったりもしますし、ときには台本のほうを書き換えたりもします。 『辰巳』でいうと、主役の遠藤雄弥さんは最初、別の役でオーディションを受けてもらったのを見て、辰巳役のオーディションにも来てもらいましたし、森田想さんの役はもともと男性だったのを、別の役のオーディションで彼女を見て、台本を女性に書き換えました。 ――森田想さんをオーディションで見て、受けた役よりもあっちの役のほうがいいな、でもあっちの役は男性だから、設定を女性に変えよう、という流れですか。 そうです。設定を書き換えました。実際に役者と対峙するオーディションってそのくらい重要ですし、やってる人は少ないんですよね。