『虎に翼』寅子と航一の“2人目パートナー”をどう描く? 『カムカム』『半分、青い。』と比較
『虎に翼』(NHK総合)「新潟編」で寅子(伊藤沙莉)と再会する航一(岡田将生)は、寅子の新たなパートナーとなることを予感させる人物だ。 【写真】航一(岡田将生)を玄関で迎え入れる寅子(伊藤沙莉) すでに『あさイチ』(NHK総合)の“朝ドラ受け”でキャスターの博多大吉がそのことに早くから言及していたこともあるが、戦時中に総力戦研究所にいたことを告白した航一に寅子が言った「寄り添って一緒にもがきたい」というセリフ、航一のことを気に入りすでに受け入れている優未(竹澤咲子)の「星さん、お母さんのことが好きなのかな?」「お母さんが誰のことを好きでも嫌いでもいいけど、私のせいにしないでって言ってるの」はある種確信的とも言える。 2人目のパートナーと新たな人生を歩む朝ドラは稀ではあるが、少なからず存在している。本記事では近年の対象作品をピックアップしていきたい。 ■『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期) 三世代のヒロインが、昭和から平成、そして令和までの100年のファミリーストーリーを紡いでいく『カムカムエヴリバディ』。その初代ヒロイン・安子(上白石萌音)は、稔(松村北斗)と結ばれ、稔の出征後に二代目ヒロイン・るい(深津絵里)を産む。その後、不運な事故、るいとのすれ違いが続く中で出会い、愛の告白を受けたのが進駐軍の将校・ロバート(村雨辰剛)だった。『カムカム』は勘違いが生んだ悲劇の物語。本当は誰よりもるいを愛している安子だが、ロバートを選んだと錯覚したるいは母に「I hate you」と告げる。立っているのもやっとな程に心が崩壊した安子はロバートと渡米をすることを決断した。 物語の最終盤にアニー・ヒラカワ(森山良子)として再登場する安子・ローズウッドは、るいと再会し「I love you」の言葉とともに涙の和解。ロバートとシアトルで暮らす平穏な日々がエピローグとして描かれている。 ■『半分、青い。』(2018年前期) 岐阜と東京を舞台に迂闊だけれど失敗を恐れないヒロイン・鈴愛(永野芽郁)が、高度成長期の終わりから現代までを七転び八起きで駆け抜ける『半分、青い。』。鈴愛は涼次(間宮祥太朗)と電撃的に結婚をするが、映画の夢を諦めきれない涼次に別れを切り出され離婚を決意する。 同じ日に同じ病院で生まれた幼なじみ律(佐藤健)は鈴愛の運命の相手として描かれてきた。しかし、互いに結婚し、子供がいて、40歳目前。東京から岐阜に里帰りをした鈴愛は、夏虫駅のプロポーズ以来13年ぶりに律と再会する。 鈴愛と律の揺れ動く心情や関係性が『半分、青い。』における核たる部分だ。律が鈴愛の夢を奪った七夕の日の別れ、夏虫駅でのプロポーズ、岐阜の思い出の川での5秒より少し長い互いに触れたいと思った別れのハグ、「スパロウリズム」での引き寄せられるかのようなキス。恋人とも、親友とも、ソウルメイトという言葉もどこか違う鈴愛と律は、最終回にて「リツのそばにいられますように」「鈴愛を幸せにできますように」という互いの願い事が叶うこととなる。2人のその後は描かれてはいないが、パートナーと言っても過言ではないだろう。なお、永野芽郁と佐藤健は今年12月公開の映画『はたらく細胞』で『半分、青い。』以来、6年ぶりの共演を果たす。 ■『虎に翼』(2024年度前期) 北川悦吏子が脚本を務めた『半分、青い。』は、当時“朝ドラらしくない朝ドラ”と謳われていたが、『虎に翼』もまた“朝ドラらしくない朝ドラ”と評され、これまで朝ドラを観てこなかった層を取り込んでいる。その評価の意味合いは『半分、青い。』とはまた別ベクトルで、例えば「脚光を浴びない人々や人間の愚かさも恐れず描く」(『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 虎に翼 Part1』より)吉田恵里香の脚本は、冒頭に先述した航一の過去に詰まっている。 『カムカム』のような悲劇性や『半分、青い。』のような運命性は、『虎に翼』の寅子と航一にははっきり言ってない。寅子には今も愛する亡き夫・優三(仲野太賀)という存在がいる。けれど、どうしても惹かれあってしまう。理屈ではどうすることもできない、その“けれど”をどのように描いていくのか。そこにはきっと朝ドラの前例にない答えが描かれるだろう。
渡辺彰浩