西山朋佳さんがカド番しのぎ「史上初の女性プロ棋士」まであと1勝 そもそも将棋界ではなぜ女性の活躍に「高い壁」があるのか
将棋の女流棋士として3つのタイトルを持つ西山朋佳さん(29)が12月17日に大阪の関西将棋会館で行われたプロ棋士編入試験第4局に勝利した。来年1月に行われる第5局に勝てば、女性初のプロ棋士となる。歴史的快挙が一歩近づき将棋ファンは沸き立っているが、そもそも将棋界にはなぜ男性のプロ棋士しかいないのだろうか。(ノンフィクションライター・石山永一郎) 【写真を見る】笑顔で写真に収まる振袖姿の西山朋佳女流三冠。対局中は打って変わって「勝負師」となる ***
「棋士」と「女流棋士」の違い
“試験官役”の若手男性プロ・宮嶋健太四段を相手にした第4局で、西山さんは得意の「振り飛車」を採用。中盤から有利になり、そのまま押し切った。これで5番勝負の成績は2勝2敗。負ければ終わりだったカド番をしのいだことで、「女性初の棋士誕生」まであと1勝となった。 だが、このニュースを聞いて将棋を知らない人の中にはこんな疑問を抱いた人もいるのではないか。西山さんは「棋士」ではなかったのかと。 端的に言えば、西山さんは「棋士」ではない。「女流棋士」と呼ばれる、いわば別リーグで活動しているプロである。 棋士になるには、本来、「奨励会」と呼ばれるプロ養成機関に6級で入り、昇級昇段を重ね四段まで昇りつめなければならない。男性のプロ棋士は、今回の西山さんのように編入試験に挑戦し、合格したごく一部を除き、みな奨励会を勝ち抜いて四段になり、プロの資格を得た者たちだ。 奨励会には女性も入ることはできるが、奨励会を抜けて四段になった女性は過去に一人もいない。つまりこれまで女性に棋士がいなかったのは、女性に門戸を開いていなかったわけではなく女性に棋士合格者がいなかっただけなのだ。
女流棋士が男性棋士から初勝利を挙げるまで12年もかかった
西山さんも奨励会三段まで昇段したが、惜しくも四段にはなれなかった。奨励会三段には「満26歳までに四段に昇段できなかった者は退会する」という厳しいルールがある。将棋指しに大器晩成型はほぼおらず、若いうちに一定のレベルに達しなければプロでの活躍は期待できないという考え方からくる、将棋界独特のルールだ。 西山さんは年齢制限の直前に奨励会を自ら退会、四段の道は断念した。ただ、女性だけの「女流棋士」というプロ棋士制度があるため奨励会を三段で退会後、女流棋士三段になった。一方、奨励会を三段で辞めた男性にはこういう道は用意されておらず、将棋を指し続ける場合はアマチュアとして大会に出場するほかに道はない。 女流棋士制度は1974年に創設された。しかし、発足当初の実力は男性棋士よりかなり劣り、男性棋士の棋戦にも一部が参加できるようになった81年以降、中井広恵女流名人(当時)が93年に男性棋士から初勝利を挙げるまで女流棋士は対男性棋士38連敗というさんざんな状況だった。 肉体的に男女差があるスポーツと違い、頭脳競技である将棋においては本来、男女差はないはずだ。実際、囲碁の世界では男性と対等な条件でプロになっている女性がたくさんいる。にもかかわらず、将棋界ではなぜこれまで女性が男性と肩を並べてこられなかったのか。 「囲碁は感覚的な判断が重要な局面が多く、女性に向いている。将棋は徹底して理詰めなので男性が有利」という説もあるが、一番の要因は女性が将棋に関わってからの歴史がまだごく浅いことだろう。