これぞガチ中華 辛くない伝統の四川料理「鶏豆花」 ほろほろ崩れる鶏肉スープ、豆腐のような食感
【ガチ中華ヒストリー・福岡市の「三鼎」】
透き通るようなスープ「清湯(チンタン)」に小さな凹凸のある白い塊が浮かぶ。スプーンですくうとほろほろ崩れ落ちそうになり、すするようにして口に含む。じんわりと広がる鶏肉のうまみ。やわらかく繊細な味わいがおなかの中まで染み渡った。 【写真】巧みな中華鍋さばきでパラパラに仕上げた「腊肉炒飯」を皿に移す厳天偉さん これは四川の伝統料理「鶏豆花(チートウホワー)」。福岡市・北天神の須崎公園そばに店を構える「三鼎」のお薦めの一品だ。四川と言えば唐辛子をふんだんに使った激辛料理を思い浮かべる人も多いだろう。この店の料理を食べると、そんな印象を大きく覆されることになる。 「大多的伝統川菜就是不辣的(本来の四川料理のほとんどは辛くありません)」。料理長の厳天偉さん(53)はこう断言する。 四川は豊かな土地に恵まれ、三国志の英雄、諸葛亮孔明も「沃野千里 天府之土(どこまでも肥沃な天から与えられた大地)」と表現したほど。食材の豊富さで知られ、料理の多彩さは中国随一だ。「麻辣菜肴只是众多川菜中的ー种(辛い料理は四川料理の中の一部にすぎません)」。厳さんは繰り返し強調する。
◎重慶の最高級レストラン 日本人客の言葉に違和感
18歳で料理人の道に入り、中国・重慶市の最高級ホテルの料理長まで上り詰めた厳さん。高度成長期の真っただ中にあった当時、発展著しい同市には外資による投資が相次ぎ、厳さんのレストランにも多くの日本人ビジネスマンが訪れた。 日本人と接する中で、いつも違和感を覚えていたことがある。厳さんが腕によりをかけたコース料理を提供すると、「中国でこんなに多彩な料理を食べられるとは思わなかった」とよく驚かれたのだ。「吃飯了嗎(ご飯は食べられましたか)?」と相手を気遣う言葉が日常のあいさつになっていた厳しい時代の印象が残っていたのかもしれない。 「四川料理の奥深さをもっと多くの日本人に伝えたい」-。いつしかこうした思いが厳さんに芽生え、日増しに強くなっていったという。 そして20年前に来日。すると今度は「四川料理は激辛」という認識が日本に広がっていることに驚いた。“本場”を掲げる中華料理店を食べ歩いたが、納得できる味の料理がなかなか見つからない。「こうなったら自分で店を立ち上げよう」。九州最大の商業地、天神から四川の伝統料理を発信していこうと決めた。