銀シャリ橋本のエッセイ集に、思わず「うるせーよ!」 佐久間宣行がツッコんだわけとは? 「まさかそんな体感になると思わなくて」(レビュー)
そんな橋本くんの初めてのエッセイ集『細かいところが気になりすぎて』は、読んでいると橋本くんが本当に隣にいて喋っているような感覚になって、それにまずびっくりしました。まさかそんな体感になると思わなくて笑っちゃったし、思わず「うるせーよ!」ってツッコんでしまった。橋本くんくらい実力があって喋りにスピード感がある芸人さんが、文字に書かれたときの方が喋っているとき以上にうるさくて速さを感じるなんて、すごいことだなと。類を見ない“うるさい本”だなぁと(笑)。 たくさんの芸人さんがエッセイを書かれていて、価値観で書く人、妄想で書く人、独特な視点を生かして書く人とそれぞれ特徴が出ますが、日常生活で起きた出来事の細かいところにひたすらツッコミ続けている内容はもちろんのこと、文字や文章でしかできない表現を巧みにしているところが橋本くんならではのオリジナリティで、それがかなり面白いってとんでもない筆力ですよね。僕もラジオ番組をやっているのでわかるのですが、ラジオで話すこととエッセイに書くことって内容が近くなりがちなのに、橋本くんはちゃんとエッセイでしかできないことをやっている。「エッセイを書く意味がある」と、最初の著作からちゃんと確立しているのもまたすごい。 特に「汁」の一編にはそれを強烈に感じました。ラーメン、お鍋、おでんの汁、アクアパッツァ、あさりの酒蒸しなどなど、好きな「汁」についてこれでもかというくらいにツッコミを書き連ねていくのだけど、とにかくやりたい放題。リミッターを外した状態でセンスを存分に発揮できると、ここまでやれちゃうんだ! と驚いたし、一番笑っちゃいました。きっと普段はギプスをした状態――周りに気を遣ったり空気を読んだりしたうえでツッコんでいるのが、制限を完全に解放したときの過剰さと言ったら……めちゃくちゃ面白くて、でも、やっぱり気持ち悪いくらいうるせーよ! (笑) 書き下ろしの一編「結婚」に至っては、奥さんの考えていそうなことを予想してそれにツッコミを入れていくなんて、もはやツッコミのノイローゼとも言えるでしょう。 すべてのエッセイに掲載された相方鰻くんの4コマ漫画も、どれも鰻くんならではのセンスがあふれていてすごく良かった。橋本くんのツッコミに独特な感性で寄り添っていて、「銀シャリ」というコンビならではの魅力も味わえる一冊です。 大いに笑わせてもらいましたが、実は繊細で気にしすぎるゆえに生きづらいと橋本くんが本音を吐露するところも強く印象に残っています。自身の経験から「無口な人も実は脳内ではお喋りなんだ」っていうフレーズには思わずハッとさせられたし、寡黙なタイプの方に勇気を与えるものですよね。それに、最後の「おわりに」に書かれた、ツッコむことで日常の嫌なことがボケに見えてくるっていうのは、いろんな人に教えてあげたい考え方だなと。 存分に発揮された橋本くんのツッコミを、ぜひ多くの人に読んで楽しんでほしいです。「うるせーよ!」ってツッコミながら(笑)。 [レビュアー]佐久間宣行(テレビプロデューサー) 協力:新潮社 新潮社 波 Book Bang編集部 新潮社
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