伝統の「酸っぱい梅干し」が消える!法改正で全国の自宅兼製造場が存続の危機、立ち上がった「梅ボーイズ」に聞く
■ 梅干しにも食中毒リスク? 「そもそも、“食中毒リスク”に梅干しが入っていることに疑問を呈す梅農家さんも少なくありません。浅漬けも梅干しも同じ『漬物』ではありますが、加工方法は異なります。梅干しにはクエン酸という抗菌作用があるほか、加工の段階で水分を抜き、細菌が繁殖しないようにしている保存食です。梅干しにおいても、まれに酵母が表出し商品を回収することはありますが、基本的には人体に悪影響を及ぼさないもので食中毒に極めてなりにくいというのが梅業界のコンセンサスだと思います」 梅ボーイズの山本氏は、こう強調する。 山本氏は、日本有数の梅の産地として知られる和歌山県日高郡みなべ町で、梅の栽培から加工、販売まで手がけ、「梅ボーイズ」というブランド名で販売している。現在30代前半の山本氏は5代続く梅農家の三男として生まれ、北海道大学薬学大学院でガンの新薬の研究に従事した後、実家にUターンし「梅干しビジネス」に挑戦している。 梅ボーイズが販売する梅干しは、伝統的な梅干しの製造方法に則った無添加の、しょっぱくて、酸っぱいのが特徴。ネット販売を中心に売り上げを伸ばし、40代女性のファンが多いという。 「食品衛生法の改正が必要ではないとは思いませんが、杓子(しゃくし)定規に基準を守っていれば、安全なのかという点についても疑問です。例えば、手洗い場を複数導入することを求めていますが、そうした設備を設置したとしても、実際にルールに則って手を洗うかは管理者と従業員の心掛け次第。保健所が常にチェックできるわけでもないので、個人的には加工過程よりも、塩分濃度や酸度など最終商品にチェックポイントを設けたほうが安全性は高まると思います」(山本氏)
■ クラウドファンディングで目標の12倍達成 梅ボーイズは祖母の家で梅干しを漬けてきたが、改正食品衛生法の完全施行を受けて新たに加工施設を建てた。投資額は約4000万円で、その負担は重い。 山本氏は設備投資の方法を模索していたとき、SNSでほかの梅干し農家からの悲鳴も聞こえてきた。 「道の駅で細々と梅干しを販売しているような農家は多額の設備投資などできません。高齢化も進んでいて、一歩踏み出すのも難しい。『もう梅干しをつくるのはやめます』という声をたくさん聞きました。実際、みなべ町でも産直売り場で販売していた事業者さんが6~7社いたのですが、6月からゼロになるそうです」(山本氏) そこで山本氏は3月からクラウドファンディングを実施。集めた資金で、全国の農家と連携し、改正食品衛生法の基準を満たす製造所を整備していく計画を訴えた。すると大きな反響があり、5月31日に締め切ったクラウドファンディングでは目標金額の100万円を大きく上回る約1270万円を調達した。 なぜ、目標の12倍もの資金を調達できたのか。山本氏は「しょっぱくて、酸っぱい梅干しを後世に残したい」という人々の声が多かったからだと分析する。