【オンライン授業は風俗の個室で】学費のためにカラダを売る学生が急増中。日本の貧困を本格化させた「2004年の分岐点」とは?
学費のためにカラダを売る
「いま、大学は春休みなので、週5日~6日で出勤しています。14時~閉店24時まで、ほぼ毎日。稼いだ金額は先月75万円、先々月50万円くらい。でも、この前、風俗していることがお母さんにバレた。実家を出て、いまは一人暮らし。親とは絶縁状態なので、学費のほかに生活費が必要になった。もう休みの期間中は限界まで働くしかない。私立なので学費が年間110万円、残り2年間あって220万円必要で、時間があるときに働いて貯金したいってことでの鬼出勤です」 松本未來さん(仮名、20歳)は、地方にある中堅私立大学3年生だ。ほとんど休むことなくソープランドに出勤する。清楚な優等生風で、大学では体育会系の部活に所属(活動は土日のみ)し、グローバルビジネスの研究をしている。大学の授業期間中は土日を中心に、休み期間中はほぼすべての時間を店の個室で過ごしている。オンライン授業はソープランドの個室で受けた。 「最初は店舗型ヘルスで働きました。高校3年のとき、国立に落ちたら私立、私立に行ったら風俗やるって決めていました。それまでの男性経験は一人だけです。経験はほとんどないけど、なんとかなるって自信はありました。実際にやってみて、キツイけど、やっぱりお金もらえるのが嬉しかった。精神的にもダメージのある仕事でしたけど、お金もらえるっていうのと、お金が貯まる、大学に行くことができるっていうのがすごい、私にとって幸せだった。だから続けています」 国立大学に落ちたことで、母親に「奨学金で大学に行け」と言い渡されている。両親は正規雇用の県庁勤務で、世帯収入は1200万円を超える。しかし、両親が学費の援助を拒否したので、私立に進学先が決まった高校3年3学期に高校の教室で風俗嬢になる決意をしている。大学入学以降、中年男性に肉体を貪られる毎日だ。 「自分は何しているのだろう?って、よく思います。成人式の日は変なお客さんが多かったこともあって、すごく落ち込みました。学校の友だちとか部活の仲間とか、普通のレストランとか居酒屋とかのバイトで、なんとかやりくりしているわけじゃないですか。でも私はこうやって1日何時間も働いて、おじさんの相手して、いつも裸で全身を舐められて、何しているんだろうって。まともじゃないなーって悲しくなるときは、めっちゃあります」 彼女のような厳しい境遇は、大学生では珍しくない。両親は平均以上の所得があるのであらゆる給付奨学金、第一種奨学金は対象外であり、学生生活にかかるお金を肉体で稼がなければならない。団塊ジュニアの両親、団塊の世代の祖父母は、彼女に自分の学生時代の価値観で語る。未來さんの壮絶な苦境を何も理解していない。家族の無理解と高額な学費がのしかかり、欲望に飢えた中年男性を相手に性的サービスを提供し続ける、という悲惨な状況に陥っている。 ---------- 山田昌弘(やまだまさひろ) 中央大学文学部教授。1957年、東京都生まれ。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は家族社会学。「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」などの言葉を世に広めたことでも知られる。著書に『希望格差社会』(筑摩書房)、『新型格差社会』『結婚不要社会』(いずれも朝日新書)、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社新書)など多数。 ---------- ---------- 中村淳彦(なかむら あつひこ) ノンフィクションライター 1972年、東京都生まれ。ノンフィクションライター。貧困や介護、AV女優、風俗などの分野でフィールドワークを行い、執筆を続ける。貧困化する日本の現実を可視化するために、過酷な現場の話にひたすら耳を傾けている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『日本の貧困女子』(SB新書)、『職業としてのAV女優』『パパ活女子』(ともに幻冬舎新書)、『悪魔の傾聴 会話も人間関係も思いのままに操る』(飛鳥新社)、『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社新書)など多数。 ----------