JR東日本の小田栄駅開業で注目「戦略的新駅」ってなに?
新駅設置以外にも様々な取り組みが
この包括連携協定は前述の通り単に新駅を作るというだけではない。小田栄駅の開業に合わせて、列車の増発や運転本数の見直し、さらにはJRと川崎市が共同で駅周辺道路のカラー舗装化やバス停の安全対策を行なうなど、「従来の新駅開業時以上の利便性向上」が図られている。 この他にも、南武支線を走る205系では側面の帯や座席のモケットにイラストが描かれるなど、イメージを一新。これも、南武線の魅力を向上させようという「協定効果」だ。引き続き、鉄道とまちの発展につながる利便性向上に向けた取り組みが期待される。 ちなみに、今後「戦略的新駅」が誕生するのかどうかが気になるところだが、これまでに書いた通り「戦略的新駅」の設置は地元自治体と「包括連携協定」を結んでいることが前提。現時点では川崎市以外と「包括連携協定」を結んでいないため、「戦略的新駅」の設置はない、ということになる。 もっとも、JR東日本によれば「相互信頼関係のもと、協働によりその効果を一層高められる事柄が明確になれば、他の自治体との協定締結もあり得る」とのことだ。
他の鉄道会社の新駅つくり方は?
ところで、他の鉄道会社の”新駅のつくり方”はどんな感じなのか。たとえばJR西日本では、冒頭に書いた通り請願駅という形で南草津駅や島本駅がつくられた一方、今年3月に開業した摩耶駅は約40億円の設置費用をJRが全額負担した。 また地方の第三セクター鉄道などでは、自治体だけでなく地元企業が設置費用を全額負担する例も珍しくない。さらに、都市部の郊外ではかつて私鉄が住宅開発とセットで新駅どころか新路線を建設することも多かった。 こういった例では鉄道会社と自治体の連携は当然行なわれているわけで、設置の経緯や費用負担の割合と同様、鉄道会社と自治体の関わり方は場所によってさまざま。今回の「戦略的新駅」も、こうした様々なスキームの1つといえるだろう。 とはいえ、鉄道会社と自治体が新たな形でタッグを組んだ「包括連携協定」と小田栄駅。今後このスキームが定着していくのか、そして鉄道とまちの発展にどのような効果を生むのか注目だ。 (文/伊原薫/鉄道ライター) ■伊原薫(いはら・かおる)大阪府生まれ。京都大学大学院・都市交通政策技術者。(一社)交通環境整備ネットワーク会員。グッズ制作やイベント企画から物書き・監修などに取り組む。都市交通政策や鉄道と地域の活性化にも携わっている。好きなものは103系、キハ30、和田岬線、北千住駅の発車メロディ。