言語問題、過疎化……内モンゴルの遊牧社会はこれからどこへ向かうのか
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚しい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのか。 アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。
フルンボイル草原を訪れ、スレンジャッブさん一家をはじめとする内モンゴルのブリヤート族の、質素ではあるが幸せそうな生活に触れてきた。 そのうえで、これから内モンゴルのブリヤート族の未来はどうなるのだろうか、と心配になることがある。彼らは、わずか1万人足らずの人口でありながら、今日に至るまで、自分たちの文化をしっかりと守り続けてきた。しかし、最近20~30年の間に生じている変化は小さくない。 その一つは言語問題だ。若者が中国語を重視する傾向がより顕著になっている。一方で、遊牧離れ、都市部への移住などによって伝統文化を知らない世代がますます増え、日本の地方と同じように、田舎には高齢者ばかりが残される時代がすでに到来している。 ブリヤート族や他のモンゴルの人々は、遊牧社会と市場経済社会の間をさまよいながらいったいどこへ向かうのだろうか。遠くない未来に本質的な遊牧社会は消え、言語が失われ、そして、民族も滅ぶのではないか。私はいつも悲観的に考えてしまう。 しかし、だからこそ、現在進行している状況をありのままに記録しておくべきだと思う。無力な自分だが、少しずつその取材や撮影を続けたい。そして、それを世の中に伝えて、次世代に残していくことこそが私の役割であり、使命だと考えている。 ※この記事は「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮る―アラタンホヤガ第14回」の一部を抜粋しました。
---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。