シリア脱出のアサド大統領、家族とモスクワ到着 プーチン氏が決断とロシア報道官
反政府勢力の首都進攻を受けてシリアを脱出したバッシャール・アル・アサド大統領とその家族が8日、ロシア・モスクワに到着し、「人道的配慮から」亡命が認められたと、ロシアの通信社がロシア政府筋の話として伝えた。ロシア国営テレビもこのニュースを報じた。 これを受けてロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は9日午後の定例会見で、ウラジーミル・プーチン大統領が自ら、アサド氏の亡命受け入れを決断したと記者団に話した。ただし報道官は、アサド氏の居場所について言及しなかった。 報道官は、プーチン、アサド両氏が最後にいつ会ったのかは説明せず、近い将来に対面する予定もないと話した。 そのうえでペスコフ報道官は、「シリアで権力の座に就く人たち」とロシアは連絡を取り続ける方針だと強調した。 アサド氏がモスクワに到着したというロシア・メディアの報道に先立ち、ロシア外務省は8日、アサド氏が「平和的な権力移譲について指示をしたうえで、大統領の職を離れてシリアを出た」としていた。これにより、シリアの反政府勢力による首都ダマスカス掌握後の、アサド氏の所在をめぐる憶測に終止符が打たれた。 シリア国内に二つの重要な軍事基地を持つロシアは、アサド政権の強固な同盟国として、アサド氏の権力を維持するために、13年にわたるシリア内戦に介入してきた。 しかし今回、ロシアはアサド政権の崩壊を止めることはできなかった。シリアのもうひとつの重要な同盟国イランと、イランの後ろ盾を受けるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラがほかの紛争に気を取られていることに乗じて、反政府勢力は電光石火の攻撃を仕掛けた。 ■アサド氏の所在めぐる憶測 アサド氏は1日にダマスカスで、イランのアッバス・アラグチ外相と会談したのを最後に、公の場で姿を撮影されていない。アサド氏は当時、目まぐるしいスピードで領土を掌握している反政府勢力を「粉砕する」と誓っていた。 反政府勢力の戦闘員は8日早朝、抵抗を受けることなくダマスカスに入った。アサド政権への大攻勢を主導した反政府勢力「ハヤト・タハリール・アル・シャーム(HTS、「シャーム解放機構」の意味)」とその同盟勢力は、「暴君バッシャール・アル・アサドは逃亡した」と宣言した。 シリアの大統領府や軍、国営メディアは、アサド氏が国外に逃亡したとは公式に認めず、同氏の所在をめぐってさまざまなうわさが飛び交った。 イギリス拠点のNGO「シリア人権監視団(SOHR)」の代表ラミ・アブドゥル・ラーマン氏は、アサド氏を乗せたと思われる航空機が「ダマスカスの国際空港経由でシリアを離れた後、空港施設にいた政府軍が撤収した」と報告。この機体が7日午後10時に離陸予定だったことを示す情報を得ているとした。 ダマスカスを離発着する航空機を追跡し、アサド氏がいつどこへ向かったのかを探ろうとする人たちもいた。 ロイター通信はシリア軍高官2人の話として、アサド氏が8日早朝にダマスカスの空港でシリア空軍機に搭乗したと報じた。 その報道によると、シリア航空のイリューシン貨物機IL-76Tは、現地時間午前3時59分に出発。目的地は不明という。 航空機の飛行情報を追跡するサイト「フライトレーダー24」によると、この貨物機は当初、首都から東へ向かった後、北西へ方向を変えて地中海沿岸へ向かった。シリアの地中海沿岸はアサド一族が属するアラウィ派の勢力地があるほか、ロシア軍の海軍・空軍基地がある。 貨物機は、中部ホムス上空を進んだ後、Uターンをして再び東へ向かったのち、高度を下げていった。ホムスは7日夜に反政府勢力に制圧された。 フライトレーダー24によると、貨物機が午前4時39分ごろ、ホムスの西約13キロを高度1625フィート(495メートル)で飛行中に、トランスポンダー信号が失われた。 同サイトはソーシャルメディアで、この貨物機は古い世代のトランスポンダーを使用していたほか、GPSが妨害されていた空域を飛んでいたため、「一部のデータは正確ではないかもしれない」と書いた。また、信号が失われた地域に空港があるとは認識していないとした。 この地域で飛行機が墜落したという報告は出ていない。 フライトレーダー24のデータでは、ロシア軍機1機が8日、シリア・フメイミムに隣接するラタキアの国際空港を離陸し、モスクワに向かったことが示されている。搭乗者は不明という。 ロシア国営メディアは、アサド氏のモスクワ入りを報じるとともに、ロシア当局が「シリアの武装反政府勢力」の代表らと接触し、反政府勢力側がシリア国内のロシア軍基地と外交使節団の安全を保証したとも伝えた。 ロシアはアサド氏を支援するための9年にわたる空爆作戦で、「テロリスト」だけを標的にしていると主張していたが、ロシアの空爆は定期的に民間人犠牲者を出し、民間インフラを破壊した。 SOHRは9月、ロシアの軍事作戦で、これまでに民間人8700人を含む2万1000人以上が死亡したと発表した。 (英語記事 Bashar al-Assad and family given asylum in Moscow, Russian media say/Live Reprting)
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