劇団新派の水谷八重子「何十年たっても変わらないもの」を語る 2025年は襲名から30年
<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム> 劇団新派の水谷八重子がこのほど、「二月新派喜劇公演『三婆』」(2月1~9日、東京・新橋演舞場ほか)の記者懇親会に、波乃久里子、渡辺えりとともに出席した。 質疑応答で、2025年は水谷八重子襲名から30年の節目を迎えることから、思いや意気込みを問われた。 しかし水谷は「30年? そんなに?」と、まったく意識してなかった様子。続けて「特別にやるぞ、という気持ちはないですね。自分じゃない人間になるということが私たちの一番の楽しみで、なりきれた時が一番の喜び。お客さまが反応して、その人間を認めてくださるのが私たちの生き甲斐。その気持ちは襲名から何十年たっても変わらないと思っています」と語り、母で初代水谷八重子さんに教わった心構えだとした。 淡々とした姿と、演じることに対する、変わらぬ熱のようなものを感じて、印象に残った。 泰然自若としたさまは、舞台裏でも同じのよう。水谷、波乃のコンビネーションについて、渡辺が「家族、きょうだいみたい。ずーっと久里子さんが文句言ってて、八重子さんにあんなこと言われていいんですか? って言うと、八重子さんは『せみの声だと思ってるの』って」と話した。波乃は「私が勝手におねえちゃまに盾突くだけで、おねえちゃまはリングに上がってこない」と水谷の様子を明かした。 波乃と渡辺の会話を聞きながら、水谷が「そんなこともあるわね」と、にこにこしているのもおもしろかった。 「三婆」は、有吉佐和子さん原作で、ある実業家が亡くなったことで、妻と愛人、義妹の3人が共同生活を始める物語。おもしろみと悲哀がこもった作品で、何度も再演が重ねられてきた。水谷も「女3人がそこにしか行き場がなくなってしまう。たまらなく情緒的」と話しており、見終わった後は、切なくなんとも言えない気持ちになる作品だ。 新派の舞台には、せりふのきれいさ、情緒、芝居の確かさが詰まっている。新派の舞台がもっと広く見られてほしいとも思う。水谷の言う「何十年たっても変わらぬもの」があるように感じている。【小林千穂】