本郷和人『光る君へ』ドラマ内で紫式部は「まひろ」、清少納言は「ききょう」と呼ばれているけれど本当の名は…平安時代の女性の名前について
大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第十六話は「華の影」。都で疫病がまん延。ある日、たね(竹澤咲子さん)がまひろを訪ね、悲田院に行った父母が帰って来ないと助けを求める。悲田院でまひろが見たのは――といった話が展開しました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。今回は「女性の名前」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし! 本郷奏多さん演じる花山天皇に入内した井上咲楽さん演じるよし子は、そのまま「夜御殿」で…ってそもそも「入内」とは? * * * * * * * ◆名前について 中宮となり、一条天皇と仲睦まじく暮らす高畑充希さん演じる藤原定子。 以前の回で、「ききょう」を女房にするのにあたり、「清少納言」という名を与えていました。 なお、ドラマ内で「定子」の読み方は「さだこ」となっていますよね。 一方、私が監修を務める『応天の門』には清和天皇の女御で、のちに皇太后となる「藤原高子」が登場します。 作品内では「たかこ」と読んでいますが、あれは「たかいこ」もしくは「たかきこ」ではないのか、という問い合わせが編集部へ届くのだそうです。
◆たかこ?たかいこ?たかきこ? たしかにぼくも高校生の時に「たかいこ」と教わった記憶があります。 では、「たかいこ」と読む証拠はどこにあるのか? 問い合わせをもらって、必死に調べたことがありました。 たとえば、『大日本史料』の延喜十年三月二十四日条、高子の亡日条など。 ところがうーん、分からない。ごめんなさい。見つかりませんでした。
◆女性の名前は分からない 結論として、当時の女性の名前は、基本的に分かりません。 たとえば『光る君へ』では“まひろ”と呼ばれている紫式部。そして“ききょう”と呼ばれている清少納言でしたが、実際のその名前は明らかではないのです。 高貴な方のお名前なら、たしかに「漢字」としては残っていて、分かります。 ですけれども、読めない。どう発音するかが分からないのです。
◆ご連絡をお待ちしています だから、取りあえずということで、紫式部が仕えた「藤原彰子」さんは「しょうし」、清少納言が仕えた「藤原定子」さんは「ていし」と音読みしています。 一番権威のある辞書、『国史大辞典』(吉川弘文館)は、その辺の事情を踏まえて、全部「音読み」にして項目を立てています。そしてこれはもちろん「便宜的にそうしている」、ということなのですが。 それで『応天の門』でも、ごく穏当に「たかこ」と読んでもらっているわけです。 もし「たかいこ」と読む典拠をご存じの方がいらっしゃったら、ぜひ著者までお声掛けください。ご連絡、本当にお待ちしております。
本郷和人
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