救いようのない最低夫がしっくりきてしまう40歳俳優の圧倒的“ふり幅”。フジ新ドラマが示したのは
『おっさんずラブ』の愛されキャラから一変…
もっていったらもっていったで、感謝の一言もなく、小言をいわれる。なんなんだ、この男。いちいち。視聴者は共感のかけらも抱けない。こんな愚劣極まるキャラクターを演じるのが、田中圭なのだからなおさら強く感じる。 だって田中圭は少し前のクールでは、彼の代名詞ともなった、はるたんこと、春田創一を演じていた人である。はるたん旋風を巻き起こした大ヒットドラマシリーズ『おっさんずラブ』(テレビ朝日、2016年)の主人公・春田創一の愛されキャラったらもうね。国民的に愛でるというか、宇宙的な次元ですらある。 もちろん俳優はひとつの作品のひとつの役だけを演じるわけではない。作品ごとに前作とは180度異なる役柄をやることはよくある。あのはるたん役の快活なイメージから、こんなふり幅の最低夫を演じてしまえる。いったい、どうやったら次の役へ気持ちをもっていけるのか。俳優とは実に不可思議な存在である。
はるたん役との共通点
他作品での役柄自体を安易にもちこむべきではないけれど、それでも宏樹役にもほんの一瞬、はるたん的な快活さが弾む場面がある。宏樹が寝たあと、ひとりソファに座って図鑑のページをめくる美羽による回想。 結婚して5年。初めの頃は和やかな夫婦関係だった。帰宅した美羽がわっと泣きだしたのを見た宏樹も声をあげて一緒になって明るく泣く。顔をくしゃくしゃにするその表情や感情のアウトプットには、はるたん的なものが感じられる。昔は快活で人懐っこい人だったのである。 さらに細かい共通点をひとつあげるなら、陰湿な夫に変貌してからの宏樹の肩に注目してみる。美羽が会社まで封筒を届けた場面で、宏樹が着るスーツの右肩の端っこあたりがくぼんでいる。田中圭がスーツを着るとこうして右肩がなぜだかくぼむ(スーツのフィット感の問題でしかないのだが)。『おっさんずラブ』の春田はあえてくぼみを作っているのかというくらいくぼんでいた。 宏樹と春田はまったくベクトルが逆方向のキャラクターではあるのだが、このくぼみが同一人物(田中圭)が演じていることを証明するスポットみたいな役割になっていると思う。