【コラム】ずっと待ち続けた“強過ぎるバルセロナ”の復活!このクラブを知らないフリックが仕掛けた素敵な裏切り
■理想のバルサ
今、私たちが目にしているバルサは、カンプ・ノウ(今のホームスタジアムはモンジュイックだが)で長らく姿を消していた、私たちが求め続けてきた、恋焦がれ続けてきたバルサだ。怯むことなく勇敢に攻めに出て、ボールを失えばすぐにプレッシングを仕掛け、高いDFラインに向けてロングボールを蹴られればオフサイドトラップを狙う……。バルサにシンパシーを感じていてもクラブと血縁関係ではないフリックが、魅力的な攻撃的チームを取り戻してくれたのだ(手数をあまりかけない、少し直線的な攻撃はややドイツ的であるとはいえ、それも現代フットボールでは功を奏しているし、何よりも見応えがある)。 とりわけ素晴らしいのは、フリックが選手たちに仕事への情熱や喜びを植えつけたことである。 例えば、チャビのバルサはスーペルコパ&リーガで優勝を果たし、メッシ退団後のクラブにタイトルを取り戻させてくれた。だが彼らはプレーを楽しんでいたわけではなかった。当時のチームが何度も繰り返した1-0での勝利が、その不完全な幸せや苦心を物語る。彼らは背中にナイフを突きつけられながら、どうにかして喫緊の勝利をつかんでいた。 翻って現在のバルサにはプレーする喜びと、自分たちが行っていることへの絶対的な自信と確信がある。的確な守備とフィードを武器とするイニゴ・マルティネス、度重なる怪我を乗り越えて皆が期待したような世界屈指のファンタジスタになろうとしているペドリ、決して止まらないゴールマシーン・レヴァンドフスキ、そしてハフィーニャ……昨季までキャリアの下り坂にいた選手たちが、今はそれぞれのポジションで欧州トップ5の地位を占めるようになった。そんなこと、一体誰に予想できただろうか?
■ハフィーニャ、そして下部組織の存在
この奇跡のパラダイムを象徴する最たる存在が、ハフィーニャである。昨季まで批判を浴び続け、バルサの“エントルノ”の最たる犠牲者だったブラジル人FWは、本職だったはずのウィングから距離を置いて、“働き者の10番”として生まれ変わった。何よりも、キャプテンマークを巻いた彼には自信が漲っており、真のリーダーとしての振る舞いを見せている。 バイエルン戦のハットトリックは、ハフィーニャが選ばれし者だったという証明にほかならない。GKをかわすことができ(そうした芸当をできる選手が最近はめっきり減ってしまった)、両足でゴールを決められ、なおかつパスだってうまい……。フィジカルとプレースピード全盛の現代フットボールでは、最後のところの精度が目も当てられないほどに荒くなることが往々にしてあるが、彼は力強い走りと高精度のキックを両立させる稀有な存在だ。 フリックは下降線をたどっていた選手たちをよみがえらせただけでなく、カンテラーノ(下部組織出身選手)たちにも信頼を置いた。ベルナル、カサドをはじめ、若手たちはその信頼に見事に応えており、バルサの下部組織マシアはかつての価値を取り戻している。そう、マシアはバルサの歴史において根幹的な役割を担ってきたが、財政的に苦しい現在はなおさら重用されなければならない。例えば、バルサの厄介な“エントルノ”は何カ月にもわたりキミッヒの獲得を求めてきたが(財政的に無理なのは明らかだった)、フリックはカサドに対して「君が私のキミッヒだ」と断言。……まったく、とんでもない監督である。