中国による台湾「隔離」のリアル 明日にも起きうるそのシナリオとは
「台湾有事」とは武力侵攻だけを意味するのではない。中国は米国などの第三国が介入できないような「グレーなやり方」で台湾を脅かそうと準備を進めている。その「隔離」シナリオと日本がいまできることについて、FNNワシントン前支局長のダッチャー・藤田水美氏が考察する。 【画像】中国による台湾「隔離」のリアル 明日にも起きうるそのシナリオとは 台湾有事について、これまでワシントンのシンクタンクでは議論の中心は武力侵攻だった。中国の人民解放軍の艦船やミサイルの数を分析し、米国のインド太平洋軍のそれと比較して、勝算を予測する。 また、日本にある米軍基地がどれほどの被害を受け、死傷者数がどの程度になるのか、詳細なシミュレーションが繰り返されてきた。 しかし、2024年10月に台湾周辺で実施された中国海警局が主導する大規模演習を経て、その風向きが完全に変わった。安全保障の隙をついた中国の非対称戦略に米政府関係者も頭を悩ませているのだ。 10月14日、台湾の建国記念日に相当する「双十節」の4日後、中国海警局は世界最大級の巡視船「海警2901」(1万トン級)を含む4つの編隊を投入し、台湾をぐるりと取り囲む形で「法執行パトロール」と称する演習をおこなった。空母「遼寧」を含む人民解放軍の海軍艦隊は見守るように少し離れたところに配置された。 この動きについて、台湾の国防安全研究院国防戦略・資源研究所の蘇紫雲所長は現地メディアに「隔離または封鎖という特殊な要素が含む演習であり、封鎖能力の訓練だった」と指摘している。 また、台湾海軍の唐華司令官は英誌「エコノミスト」の取材に対し、「中国軍は台湾を疲弊させようと圧力を絶えず高めており、人民解放軍が迫れば迫るほど、台湾は紛争を回避することに重点を置くようになる」と述べ、台湾の士気を削ごうとする中国軍の戦略を獲物を締め上げて飲み込む「アナコンダ戦略」と呼んで危機感をあらわにした。
「隔離」と「封鎖」の違い
米国の戦略国際問題研究所(CSIS)は、「隔離」と「封鎖」を明確に区別している。その最大の違いは、軍事的性質を持つかどうかだ。 「封鎖」は人民解放軍が前面に出てミサイル攻撃や台湾を包囲し「兵糧攻め」にするオプションを含む一方で、「隔離」は海警局が臨検などの法執行を通じて管理することであり、武力衝突には至らないグレーゾーン活動にとどまる。 隔離シナリオであれば、台湾海峡は封鎖されないため、近隣諸国のサプライチェーンが大きく寸断されることはない。法執行である臨検行為をもって「戦争行為」と判断するのは難しく、第三国の介入は極めて困難となる。中国の目的は、台湾周辺の空域と海域をコントロールし、台湾にアクセスする貨物船、航空機、人の流れを管理することにあり、事実上の主権を主張することなのだ。 CSISが台湾の主要な専門家を対象に実施した調査では、隔離シナリオにおける米軍の軍事介入の可能性について「まったく確信がない」または「ほとんど確信がない」との回答が60%に上った。 さらに、米国の同盟国や友好国による介入の可能性については86%が懐疑的に見ていることがわかった。この結果は、グレーゾーン活動への対応の複雑さを浮き彫りにしている。
Mizumi Dutcher Fujita