新クルーズ船「MITSUI OCEAN FUJI」就航 激化する「富裕層の獲得競争」
増え続けるクルーズ人口
世界のクルーズ人口はコロナ禍でいったんは落ちこんだものの、その後は回復傾向が見られる。国際客船協会(CLIA)によると、2023年は3170万人で、コロナ禍前には戻ってはいないが、力強い伸びになってきているという。このため、2027年は4000万人近い水準を予想している。 日本はコロナ禍前の2019年に35万6000人を記録したものの、コロナ禍で2020年には2万7000人に激減した。2023年は19万6300人(外航クルーズが14万3400人、内航が5万2900人)。外航クルーズのうち日本船社によるものが3400人で、外国船主によるのが14万人となっている。クルーズ船を運営している外国船主は、日本のクルーズ人口が増えていることから、20万トンに近いクラスの大型船を日本発着のクルーズに投入するなど、日本での乗客数の拡大を見込む。
海外富裕層の取り込みが重要
現在の日本船主のクルーズ船は、大手海運会社系列の郵船クルーズの「飛鳥II」。商船三井クルーズの「にっぽん丸」と、今回就航した「MITSUI OCEAN FUJI」。このほか外国船では、年に3回世界一周クルーズを運航しているピースボート・ジャパングレイスや、2017年から大型船を使って日本近海クルーズを始めた家電販売ジャパネットたかた系列のジャパネットクルーズなどがある。 こうした中で、クルーズ船事情に詳しい航海作家のカナマルトモヨシ氏は「東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドが2028年度に就航を予定しているディズニークルーズの東京発着クルーズの動向は見逃せません」と指摘する。 「当面は首都圏の港を発着する2~4泊の短期運航とし、料金は1人10万~30万円を想定。年間40万人の集客で、約1000億円の売上高を見込むとしています。同じくショートクルーズを提供する日本船にとって、手ごわいライバルとなる可能性は十分にあります」 ディズニーのブランドは日本人、とりわけ子ども連れ家族にはなじみがあるだけに、郵船クルーズ、商船三井クルーズにとっては油断できない。さらにカナマル氏は「富裕層が増加しているとは言うものの、就職氷河期世代も多数存在するのが日本の40~50代です」と話す。 「氷河期世代が高価な日本船に乗る可能性はそこまで高くなく、国内富裕層だけに絞った日本市場の小さなパイを2社4隻で奪い合うことになりますから、激しい争奪戦になると思われます。今後は、海外富裕層の取り込みが重要になってきます。現時点では、日本船2社とも、欧米豪などの富裕層をターゲットにしているように思いますが、さらにアジア圏の取り込み戦略も描いていかざるを得ないでしょう。ただ、日本船は日本人の日本人による日本人のためのクルーズを長く手掛けてきたことで、日本人常連客の抵抗感(海外乗船者が増えること)も強いと聞きます」 今後は郵船クルーズと商船三井の両社の対応が注目される。