世界の藤田真央、CD「72プレリュード」昨秋リリース ザルツブルクなど今年も活躍続く
世界で活躍が続くピアニスト、藤田真央(26)が昨年暮れ、東京・赤坂のサントリーホールでリサイタルを行った。ソニーから昨秋発売されたCD「72プレリュード」と同じプログラム。決して華やかな曲目ではないが客席は完売だった。昨秋はパリ、ニューヨーク、能登、東京、香港などと目の回るような忙しさ。シンガポールでのリサイタルから帰国したばかりで、取材にはいつもの笑顔で応じてくれたが、「来シーズンからは仕事を吟味します」と話した。 【画像】昨年のアップルミュージッククラシカルの人気アルバムで4位に入った「藤田真央-72Preludes」 ■「全曲」に意味がある 東京でのリサイタルはショパンを最後に、スクリャービン、矢代秋雄それぞれの「24の前奏曲(プレリュード)」全曲、計72曲を演奏。午後6時半にスタートし、終演は10時を超えた。ピアノを奏でる喜びをたたえ、矢代でさえ楽しそうに演奏する姿が印象に残る。 「今さらショパンを私が演奏しても新しいものはできないと思っていました。矢代先生の作品はやっと2022年に出版されました。自筆譜も見せてもらいました。最初は単に邦人の作品を演奏したい、と安直に考えていましたが、ショパン、スクリャービンと双璧だと思いました。初め矢代作品は抜粋と言われましたが、全曲録音に意味があると説得しました。カーネギーホールでも弾きましたし、ケルンやチューリヒでは全曲弾きました。ケルンの聴衆は熱狂的なスタンディングオーベイションでした。15歳のときの作品で習作期にあたります。この作品に出合えなかったら矢代先生の思いに到達できませんでした。日本的なメロディー、フランス的なもの、舞曲、舟歌などいろいろな世界を提示してくださった。作曲家に近づく作業自体が尊いものです」と話す。 ■世界またにかけ 昨年11月8日、香港出身のエリム・チャンが指揮するマーラー室内管弦楽団とベートーベンの協奏曲第4番で共演、パリのホール、フィルハーモニー・ド・パリにデビューした。同月、高松宮殿下記念世界文化賞の授賞式で来日したマリア・ジョアン・ピレシュの代役だった。翌々日の10日にはニューヨークのカーネギーホールで2度目のリサイタル。ベートーベンのピアノソナタ第23番「熱情」などと矢代の「24の前奏曲」などを演奏。13、14日は能登半島地震被災地復興プロジェクトとしてバイオリンの五嶋みどりと輪島などを回った。その後はルクセンブルクやドイツ・エッセンなどでの公演、香港フィルのソリストを務め、台北の後、やっと12月12日に東京でリサイタルを行った。 今月からのスケジュールも詰まっている。マドリードでバイオリンのルノー・カプソン、チェロのキアン・ソルターニとトリオでのコンサート。そしてスイスに飛びマレク・ヤノフスキ指揮チューリヒ・トーンハレ管弦楽団と共演、チェコ・オストラヴァでリサイタル、ベルリンに戻り、レオニダス・カヴァコス指揮ベルリン・ドイツ交響楽団とコンサート。こんなふうに世界をまたにかけ活動する現代の日本人演奏家は唯一無二だ。